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調律師  作者: 小高まあな
第七章 傍観者はかく語りき
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4−7−6

「皆、元気にしてるよ? 直さんも円姉も、沙耶も」

 聞きたいの、そういうことでしょ? と言われて頷く。

「一海に戻ったから直さんたちは忙しいみたい。本腰をいれて活動っていうか。沙耶もそれの手伝いをしているって。あ、直さんにカノジョが出来そうだって円姉が言ってた」

「へえ?」

 意外な言葉に、目を見開く。

「なんか、一海の使用人の人らしくて。もともと仲はよかったらしいけど。円姉は相変わらずみたいだけど、そっち方面」

「……沙耶は?」

「沙耶も相変わらずみたいだよ。なんか堂本のことがあった後、異様にテンション高くて、明るくて、変だったじゃん?」

「うん」

 頷きながらも、明るくて変と言われるなんてな、と彼女を思い口元が緩む。

「で、そのあと大道寺の社長、沙耶の父親が亡くなって、知ってるだろ? あの時、母親と会ったらしいんだけど、それでまた一つ何かが吹っ切れたみたい。最後にあったときは、またいつもみたいな少しアンニュイな感じだった。笑ってたけど」

「そっか」

「……あのさ、龍一」

「うん?」

 視線を合わせる。清澄は真顔で、

「今は沙耶のことどう思ってる?」

 尋ねてきた。

 一つ、息を吸う。

「変わらない。好きだよ」

 息とともに吐き出す。

「あんなことあったけど? 記憶のことも、堂本のことも」

「うん。この前のこと、やっぱり正直とってもショックだったけど、それでも」

 もう、今更迷ったりしない。例え、叶わなくても。

「最初に沙耶に会った時」

「こっくりさんのとき?」

「そう、あの時、最後に沙耶、笑ったんだ。それまでずっと無表情だったのに、最後に本当に嬉しそうに笑った」

「……なんで? アフターケアのときだろ? 笑うようなことってあるっけ?」

「ありがとうございました」

「え?」

「ありがとうございました、って言っただけなのに、どういたしましてって本当に嬉しそうに笑ったんだ。あのときはよくわからなかったけど、今ならわかる」

 なんであの時、あんなに嬉しそうに笑ったのか。その後事務所を尋ねた時になんであんなにぶっきらぼうだったのか。

「今までなかったんだと思う。ああいう風に仕事が終わった後に、お礼言われるようなこと」

「ああ……」

「そんなの当たり前のことなのに。俺、助けてもらったんだから、お礼ぐらいいくらでも言うのに。だから、俺は」

 ゆっくりと笑みをつくる。

「そういう当たり前のことを、沙耶に当たり前だと思って欲しいんだ。うちにきて家族団らん、バカ話しながら食事とかさ、そういうの。そして、もう一回とかじゃなくて、いつでもああいう風に笑って欲しい」

 色々あったけど、やっぱり結局この気持ちは揺るがなかった。そして今はそれだけで十分だと思えた。

「そっか」

 清澄は満足そうに頷く。

「今はちょっと落ち着かないけど、受験終わったらもう一回ちゃんと沙耶と話そうと思って」

 今後のこと。今の気持ち。駄目なら駄目で、もう一度きちんと。

「うん。頑張れ、どっちも」

 清澄が素直に応援してくれて、それに微笑む。

「っと、そろそろいかないとだよね? カノジョさん待たせてるし」

「ああ、うん。悪い、ばたばたしてて」

 二人して立ち上がる。店からでたところで、

「デートの邪魔してごめんなさい、ってカノジョさんに言っておいて」

「ああ」

 それじゃあ、と片手を上げた清澄を

「あっと、待って」

 引き止める。

「ん?」

「あ、あのさ。また、連絡してもいいかな?」

 龍一の言葉に清澄は意外そうに目を見開き、

「何、当たり前のこと言ってんの? 友達じゃん?」

 楽しそうに笑う。

「連絡、してよ。大学受かったらお祝いになんかごちそうするしさ」

 じゃあな、と手を振って、少し小走りに清澄が立ち去る。その背中を見送る。

 ああ、そっか。俺たち友達なんだ、と思った。年の差はあるけれども。

 少し嬉しくなる。

 友達だと思って良いんだ。事務所がなくなっても、連絡しても問題ないんだ。友達だから。

 軽い足取りで電車に乗り込む。

 絆はまだ、切れていない。

 今なら何でも上手く行きそうな気がした。

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