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調律師  作者: 小高まあな
第七章 傍観者はかく語りき
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4−7−5

「……事務所やめて、今は?」

「直さんの友人の、会計事務所。良い人だよ。珈琲でいい?」

「あ、できればカフェラテがいいな。普通の?」

「ん? うん、普通普通。直さんの昔からの知り合いらしくて、そういうことにも理解があるんだけど、本人は至って普通」

 カフェラテを二つ受け取り、席に着きながら、

「ああ、こういう人なら沙耶達とも上手く友人付き合いできていくんだろうな、って思わせる人」

 小さく呟いた。

「……上手く?」

「決して入り込みすぎないで、決して否定したりしないで、適度な距離感を保っている感じ。俺は、首を突っ込み過ぎた。見えないくせにでしゃばった真似をして。……今も昔も」

 カフェラテを一口。苦いものを飲んだような顔をした。

「……結局、迷惑ばっかりかけてたなー、俺」

「そんなこと……」

「でも、楽しかったんだ」

 龍一の言葉を遮る様に、笑う。

「二年ぐらいだったけど、あの事務所で見えないながらも沙耶達の手伝いをして、みんなで和気藹々としててさ、仕事は何が起こってるのかわからなかったけど自分が普段知らない世界があることがわかったし。仕事がない時は、暇だからって無駄話して、円姉がお菓子作って来て、沙耶が紅茶いれてくれて、沙耶がいないときは直さんが珈琲用意して、怖いことも怪我も辛いこともたくさんあったけど、それでも」

 一言一言、噛み締めるかのように、

「楽しかったんだ」

「うん、俺も……、ちょっとだけど楽しかった」

「勿論、今の仕事もやりがいあるし、皆良い人だし、だけどそういうのとは違うんだ」

 頬杖をつく。

「あっさり事務所がなくなって、あっさりそっちの世界との関わりもなくなって、今が毎日普通に忙しくて、なんていうのかな」

 どこか遠いところを見ながら、清澄は呟いた。

「夢みたいだったな、あの二年」

 龍一は小さく頷いた。

「全部、嘘だったって言われても……、信じてしまうかもしれない」

 龍一の言葉に清澄は少しだけ痛ましそうな顔をして、

「でも、夢じゃないよ」

「……わかってる」

「ならいいけど」

 夢じゃなかったのは分かっている。今だって見えている。コーヒーショップの窓の向こう、佇む向こうの世界の女性とか。

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