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調律師  作者: 小高まあな
第七章 傍観者はかく語りき
145/157

4−7−4

 ため息をつき、ホームに向かって歩き出したところで、

「龍一」

 また誰かに声をかけられる。俯いていた顔をあげる。

「清澄」

「久しぶりー」

 正面で手を振って笑う、清澄の姿。隣には、初めて見る女性の姿。彼女に向かって一度頭を下げる。

「お知り合い?」

 彼女の言葉に、

「うん。知り合いの息子さんで、家庭教師っぽいことしてたんだ。な?」

 にやりと共犯者の笑みを浮かべる。慌てて頷く。事務所の人は本当、さらりと嘘をつくなー、と以前も思ったことをまた思う。本当のことを言っても、信じてもらえないけれども。

「へー。高校生? 何年生?」

「あ、三年です」

「あら、受験生だー」

 彼女は清澄のエピソードを疑いもしなかったようだ。

「そうだ。尋ねたいことがあって連絡しようと思っていて」

 龍一は言う。事務所がなくなって清澄のその後とか、沙耶がどうしてるのかとか。

 ただ、どうも彼女の方には事務所関係のことは伏せていたいようだし、今ここで聞いてはいけないな、と判断し、

「また、あとで電話とかしても、平気?」

「ああ、うん」

 清澄が頷くと、

「聞きたいことって勉強のこと?」

「あ、はい」

 彼女が横から言って来た。慌てて頷く。嘘だけど。

「じゃあ、後とかじゃなくて今すぐの方がいいんじゃないの? 受験、今まっただ中でしょ?」

「あ、でも」

「私なら、駅前の本屋にでもいるから。ねぇ、清?」

「ああ、うん。悪い、祐子」

「ううん。じゃあ、受験頑張ってね」

 龍一に軽く片手を振ってみせると、彼女はさっさと改札から出て行く。

 その後ろ姿を見送りながら、

「あれが噂の、カノジョさん?」

「そう」

「なんか、想像してたのと違うっていうか、優しそうな人だね」

 事務所で怒鳴った、という話を聞いていたのでもっときつめの女性を想像していた。ふわふわと笑う、柔らかい感じの、可愛い系の人だった。

「普段はああいう感じ。俺が事務所やめたし、最近機嫌いいんだ」

 とりあえず、珈琲でもおごるよ、と駅ナカのコーヒーショップに移動した。


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