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調律師  作者: 小高まあな
第七章 傍観者はかく語りき
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4−7−3

「駄目だなー俺」

 ため息。

「あんたが駄目なのは今に始まったことじゃないでしょ」

「辛辣だなー。あのさ、ずっと思ってたんだけど、俺、そんなに海藤さんに嫌われるようなこと、した?」

「信用できないだけ」

 こずもはふんっと鼻で笑う。

「あんたみたいに、人によって俺と僕を使い分けて他人と距離をとったつもりになったり、好きでもない人に好意を押し付けられて迷惑しているのにそれを言葉にも態度にもあらわせられなかったりする、そういう人が信用できないの」

「あー」

 否定できなかった。

「まあ、最近はたまに見直す部分もあったりするけど」

 フォローなのか、そう言われる。

「でも、優しすぎるのは逆に残酷だって、ちゃんと覚えておいた方がいいと思う」

「残酷?」

「期待、してしまうでしょう? 杏子みたいに。それに、優しい人相手にはなかなか思ったことを言えないものだよ。全て受け止めてくれると分かっているから、我が侭をいってはいけないと、気を使ってしまう場合も、ある。思ったことを言えない人に、自分が思ったことを言えない場合もある」

「……それは、経験論?」

 尋ねるとこずもは一瞬虚をつかれた顔をして、

「まあ、ね」

 曖昧に笑った。

 なるほど、経験論。

「確かに、お互い言いたいこと言えてないかもなー。沙耶、あんまり思ったこと言わないタイプだし。だからこっちも言いにくいし」

「でしょ? でも向こうも同じこと思ってるのかも」

 そんなことを話している間に、改札の前までやってくる。

「こっから逆だよね?」

「ああ、うん」

「そう、じゃあ。がんばって」

 こずもが微笑む。

「受験も、恋も」

「うん、ありがとう」

 強く頷いた。

「じゃあ、また、次は卒業式? あ、その前の予餞会かな」

「そうだね」

「じゃあ、その時に。あ、杏子がケーキ作るって張り切ってたから、胃薬用意した方がいいよ」

「えー」

「私が監督するけど、あの子の料理の腕は壊滅的だから」

 ばいばい、と手を振って別れた。

 こずもの言葉を一つ一つ噛み締め、確かに逃げているなと自分を顧みた。

 とりあえず、試験が終わったら連絡すべきかな、と思った。でも、なんて言って? 今更?


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