4−7−2
「海藤さんは自転車だっけ?」
「ううん、今日は駅」
「そっか」
駅に向かって歩き出す。
「……榊原」
しばらくの沈黙のあと、こずもが言う。
「私、あんたに謝らないといけないことがあるの」
「うん?」
「あんたのカノジョ、大道寺沙耶さんに会った」
「っ!?」
思いがけない言葉に足が止まる。
「ちょっと喧嘩売った」
こずもも立ち止まると、龍一に向かってごめん、と両手を合わせる。
「か、海藤さんっ!?」
「ごめんごめん。なんかうじうじしてて見てていらいらしちゃって」
しばらく龍一はこずもを見ていたが、小さく息を吐き、
「いや、いいや。ってか、カノジョじゃないし」
「カノジョとほぼ同義でしょ、あんなの」
呆れた、とこずもは言った。
「同義って。そんなんじゃないよ」
また再び歩き出す。
「まあ、確かになんか色々複雑そうだな、とは思ったんだけど。だからって、諦めちゃうの? 結局、医学部受けてるんでしょ?」
「それは……、そうだけど。どうしようもないことってあるじゃん、好きってだけじゃ。俺、沙耶のことすごく傷つけたし」
「ないよ」
強い口調で言われて、龍一は横目でこずもを見る。
「どうしようもないことなんてない。仮にそんなものがあるとしても、どうにかしようともしないで、そういうこと言うのはずるい。それは逃げてるだけじゃない?」
そこまで言って、こずもは楽しそうに笑い、
「と、いうようなことを杏子がカノジョに言ってた」
「あー、西園寺さんも一緒だったんだ。西園寺さんと沙耶は、馬が合わなさそうだもんなー」
なんとなく、その光景が想像できて苦笑いする。
「で、榊原は逃げていないと言えるの?」
「……逃げているかもね」
叶わぬ恋だと、突きつけられることから。
「最近、連絡とってないし」
だから、とこずもを見る。
「海藤さんのこと、尊敬する。好きな人と一緒にいるためにわざわざそっちの大学受けるなんて」
意外と行動力あるんだなー、と思う。
「でしょ?」
少し、悪戯っぽくこずもが笑った。
「本当」
それから、杏子のストレートな感情表現も少し尊敬していた。あの行動力の10分の1でいいからわけてほしい。というか、全部は要らない。