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「……こずちゃん」
立ち尽くしたまま沙耶の背中を見送り、その姿が見えなくなってから杏子が言う。
「なに?」
「もしかしてもしかしたらなんだけど」
「うん」
「このケーキ、作っても意味ないかな」
「杏子……」
こずもは横でなんともいえない顔をしている幼なじみをみた。
「いいこと教えてあげようか」
「うん?」
「それ、四月の段階で気づくべきことだったよ」
言うと、幼なじみは泣きそうな顔をした。
「……やっぱりそうかな」
「うん。でも、最近ちょっといい線まできてたけどね」
「ほんと?」
「うん。けしかけなければよかったかもね? あの人、杏子の言葉に触発されたみたいだし」
笑ってみせると杏子は首を横に振った。
「全然。榊原君が元気になるならそっちの方がいいもん」
そう言って、笑った。
「とりあえず、万が一にかけてケーキは作るの! だからこずちゃん、道具買いに行こう!」
少し泣きそうな顔で笑いながら元気よく言う杏子を、目を細めて見つめながら、
「はいはい」
いつもと同じ様に呆れた調子でこずもは返事した。