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調律師  作者: 小高まあな
第五章 両親もどき
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4−5−3

 その日、龍一は、朝から図書館で数学の問題集を睨んでいた。

 あれから、堂本賢治の一件から一カ月ほど経った。調律事務所はなくなり、あのビルの前を通ってももう看板は出ていなかった。あれから、沙耶とは連絡をとっていない。

 それを寂しいとも思ったが、だからといって彼にはどうにもできなかった。

 出来るのはただ、学校が休みの今日もこうして図書館で勉強することだけ。

 正直、自分がなんで医学部を目指しているのかわからなくなりつつあった。沙耶の役に立ちたいという気持ちは、沙耶に拒否されてしまえばそれまでだ。それでもやっぱり、例えこの気持ちが報われることがなくても、彼女の役に立ちたいという気持ちは揺らがなかった。

 それから、もしかしたら、こうして医者を目指すことでかろうじて沙耶と繋がっている気持ちでいたいのかもしれない。事務所がなくなって、連絡もとりにくい今、医者になって沙耶の龍を医学面からどうにかするというのが、沙耶へ近づける唯一の理由だ。

 心のどこかでそう思いながらも、今更やめることなんてできなかった。やめる気もなかった。

「居たっ!」

 小さくあげられた声に、顔をあげる。

「ここにいると思った」

 珍しく慌てた様子で、駆け寄って来た巽翔に

「どうしたの?」

 小声で尋ねる。図書館で走るなんて真似をするなんて、いつも冷静沈着な彼らしくない。

「榊原、今日の新聞見たか!?」

 小さい声で、それでも怒鳴るようにして言う。

「え、いや?」

 龍一は首を傾げた。

 翔は息を整えながら、

「大道寺修介が亡くなった」

「大道寺……?」

 龍一は一瞬眉をひそめ、

「大道寺グループの!?」

 叫んだ。

 周りの視線が一瞬こちらに集まり、龍一は慌てて頭を下げた。

「ってことは、沙耶の……?」

「ああ」

 翔が龍一の隣に腰を下ろす。

「沙耶さん、大丈夫かな?」

 翔が呟いた。


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