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調律師  作者: 小高まあな
第四章 あたしはあたしで一人でいきます
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4−4−2

「あれ、龍一君は?」

「追い返したの?」

「違うわよ。予備校だって」

「あー」

 玄関の方で、そんなやりとりがされているのがぼんやりと耳に流れ込んでくる。

 直純と清澄がきたのだな、となんとか思えた。

「沙耶」

 声をかけられて、ゆっくりと顔をあげる。

 なんだか怒ったような顔をした直純と、泣きそうな顔をした清澄がそこにいた。

 直純は散らかった部屋を一度見回し、沙耶の向かいに腰を下ろす。おずおずと清澄がその隣に座った。

 人数分のお茶を持った円がゆっくりとやってくると、沙耶の隣に座った。

「それじゃあ、話を聞きましょうか?」

 頬杖をついて、円が切り出した。


 促されて、ぽつりぽつりと、沙耶は言葉を紡ぎ出す。

 堂本賢治に道で会ったこと、今日も再び会う約束をしたこと、彼が自分が幽霊であることを途中で自ら気づいてしまったこと。

 本当に大事な部分は、自分だけのものとして秘匿しながらも大筋を話す。

「……以上です」

 小さく言葉を締めくくる。

 円は何処を見ているのか宙を睨み、清澄は泣きそうな顔をさらにして、

「話にならないな」

 大きなため息と一緒に直純が吐き出した。

「直?」

「堂本君のことを黙っていた気持ちはわかる。でも、連れて行って欲しかったって本気で思っていたのだとしたら、話にならないな」

 強い語調で直純が言う。

「直さん?」

 普段は温厚な彼の、厳しい言葉に円と清澄が驚いた顔をした。

 沙耶は視線を下に落とす。

「沙耶が死んだら、沙耶はそれでいいかもしれないけど、じゃあ俺たちはどうすればいいんだ? 龍一君は? それで本当に、いいと思ってるわけ?」

「それは……」

「龍一君が予備校とかいって帰ったって聞いて、逃げたなって正直最初思った。違うな、彼の方が正しい。悲観して不幸に耽溺して、そんな人間と一緒にいたって時間の無駄だもんな」

「あたしは、別に……」

「別にそんな風に思ってない? 思ってなくてもそう見えるんだからしょうがないだろ」

 小馬鹿にしたように直純が言う。

「……円姉みたい」

 小さく清澄が呟く。

「連れて行って欲しいと本当に思っていたのだとしたら、堂本君に対しても失礼だな」

 盛大なため息を一つ。

「駄目だ、気分が悪い。俺は帰る」

 言いながら直純が立ち上がる。

「円、悪いけどあとは頼む」

「……わかった」

 いつも冷静な従弟の見慣れぬ姿に少しあっけにとられながらも、円が頷く。

「清、直をお願い」

 すたすたと玄関に向かう直純を見ながら、円が小声で言う。

「え、お願いって」

「とりあえず、追って。あいつ、多分、この後落ち込む」

 やけに自信満々に言われ、

「……わかった。それじゃあ、沙耶。また明日」

 頷くと、清澄がばたばたと小走りで直純の後を追いかける。

 足音が消えると、円は小さくため息をつきながら、横で俯いたままの沙耶を見る。

「……とりあえず、なんか作るからそれ食べて、寝なさい」

 困ったまま声をかけた。

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