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「あれ、龍一君は?」
「追い返したの?」
「違うわよ。予備校だって」
「あー」
玄関の方で、そんなやりとりがされているのがぼんやりと耳に流れ込んでくる。
直純と清澄がきたのだな、となんとか思えた。
「沙耶」
声をかけられて、ゆっくりと顔をあげる。
なんだか怒ったような顔をした直純と、泣きそうな顔をした清澄がそこにいた。
直純は散らかった部屋を一度見回し、沙耶の向かいに腰を下ろす。おずおずと清澄がその隣に座った。
人数分のお茶を持った円がゆっくりとやってくると、沙耶の隣に座った。
「それじゃあ、話を聞きましょうか?」
頬杖をついて、円が切り出した。
促されて、ぽつりぽつりと、沙耶は言葉を紡ぎ出す。
堂本賢治に道で会ったこと、今日も再び会う約束をしたこと、彼が自分が幽霊であることを途中で自ら気づいてしまったこと。
本当に大事な部分は、自分だけのものとして秘匿しながらも大筋を話す。
「……以上です」
小さく言葉を締めくくる。
円は何処を見ているのか宙を睨み、清澄は泣きそうな顔をさらにして、
「話にならないな」
大きなため息と一緒に直純が吐き出した。
「直?」
「堂本君のことを黙っていた気持ちはわかる。でも、連れて行って欲しかったって本気で思っていたのだとしたら、話にならないな」
強い語調で直純が言う。
「直さん?」
普段は温厚な彼の、厳しい言葉に円と清澄が驚いた顔をした。
沙耶は視線を下に落とす。
「沙耶が死んだら、沙耶はそれでいいかもしれないけど、じゃあ俺たちはどうすればいいんだ? 龍一君は? それで本当に、いいと思ってるわけ?」
「それは……」
「龍一君が予備校とかいって帰ったって聞いて、逃げたなって正直最初思った。違うな、彼の方が正しい。悲観して不幸に耽溺して、そんな人間と一緒にいたって時間の無駄だもんな」
「あたしは、別に……」
「別にそんな風に思ってない? 思ってなくてもそう見えるんだからしょうがないだろ」
小馬鹿にしたように直純が言う。
「……円姉みたい」
小さく清澄が呟く。
「連れて行って欲しいと本当に思っていたのだとしたら、堂本君に対しても失礼だな」
盛大なため息を一つ。
「駄目だ、気分が悪い。俺は帰る」
言いながら直純が立ち上がる。
「円、悪いけどあとは頼む」
「……わかった」
いつも冷静な従弟の見慣れぬ姿に少しあっけにとられながらも、円が頷く。
「清、直をお願い」
すたすたと玄関に向かう直純を見ながら、円が小声で言う。
「え、お願いって」
「とりあえず、追って。あいつ、多分、この後落ち込む」
やけに自信満々に言われ、
「……わかった。それじゃあ、沙耶。また明日」
頷くと、清澄がばたばたと小走りで直純の後を追いかける。
足音が消えると、円は小さくため息をつきながら、横で俯いたままの沙耶を見る。
「……とりあえず、なんか作るからそれ食べて、寝なさい」
困ったまま声をかけた。