4−4−1
「うん、わかった。じゃあ待ってる、うん」
一つため息をつき、円はケータイを閉じた。
「直と清がくるって」
いいながら黙ったままの沙耶と龍一を見る。ソファーに腰掛けた龍一は窓の外を睨みつけ、対角線上に座った沙耶はうつむいたままだ。
「それじゃあ、円さん」
龍一はゆっくりと立ち上がると、鞄を肩にかけた。
「俺、帰ります」
「え? 別にいてもいいのよ?」
「いえ、そうじゃなくて」
円をまっすぐ見ると少しだけ口元を緩める。
「予備校なんで」
「あ、ああ、そっか」
受験生だもんね、と小さく呟く。
「明日、事務所に行きます。平気ですか?」
「ええ」
「それじゃあ、沙耶」
龍一は沙耶の方を向く。ゆっくりと沙耶が顔をあげる。赤い瞳を睨む様にして見ながら、
「また明日」
早口で告げると、返事を待たずに玄関へ歩き出す。その後を慌てて円がついていく。
「大丈夫? 道とか時間とか……、送ろうか?」
「いいえ、平気です」
「そう? 気をつけてね」
「はい」
玄関で繰り広げられている会話を、沙耶はぼーっと顔を上げたまま聞く。壁を見つめる。
かちゃり、とドアがしまる音がした。
「沙耶」
戻って来た円の言葉にゆっくりと視線をあげる。
「……台所、借りるわよ?」
他に何をどういえばいいかわからなくて、とりあえずそう声をかけた。