4−2−8
そこから堂本賢治の猛烈なアタックが始まった。
傷ついたことは一度や二度じゃない。それでも、どうしても、沙耶が笑っている顔がもう一度見たかった。
どう考えても沙耶が賢治の勢いに折れた形だったけれども、晴れて付き合える事になって本当に嬉しかった。
付き合う様になって、ちゃんと向き合ってみた彼女は、ただただ普通の優しい子だった。
彼女の生い立ちとか、龍のこととかも聞いたけれども、だからといって気持ちは揺らがなかった。沙耶が賢治に心を開いてくれているのが嬉しかった。
あの日までは。
あの日、清澄を庇おうとして沙耶の龍が暴れたらしい。そして、沙耶はデートの日の記憶を失った。
「じゃ、また行こうか」
泣きそうな顔をしている清澄と沙耶を前にして、けろっと賢治は言った。
でも、誰にも言っていないけれども、沙耶が記憶を失った日、賢治は初めて沙耶とキスをした。照れた様に笑う彼女の顔を覚えているのに、彼女は覚えていない。あんなに勇気を出したのに。
あのときはじめて、彼女が背負っているものの意味が分かった。見えなかったから理解できなかった。目に見える物以外はわからない。当事者になってみなければ、わからない。想像だけでは補えない。
記憶を失うという事は、そういうことなのだ。