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調律師  作者: 小高まあな
第二章  かつての恋人へのささやかな贈り物
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4−2−7

 人もまばらになった放課後。部活が終わった後に、忘れていた荷物を教室にとりに行き、帰りに階段を下りていたときだ。

 二階まで降りたところで、前を長い黒髪の女の子が歩いていた。

 後ろ姿でも彼女だとわかった。

 巫女姫様は、どこかふらついているように感じられて、少し目が離せなかった。あぶなっかしいなぁとは思いつつ、でも近づきたくは無くて少し距離を置いていた。

「あ」

 小さい声が聞こえたかと思ったら、視界から黒髪が消えた。

 どんっ、

 何かが地面に落下する音に、事態を悟り、慌てて視線をうつす。視界から消えた黒髪は、階段の一番下にいた。ふらついているなとは思ったが、どうやら階段から落ちたらしい。

「うわっ、だいじょ……うわわっ!」

 間抜けとしか言いようが無い。

 駆け寄ろうと、慌てて階段を下りて、賢治自身も階段から落ちたからだ。しかも、巫女姫様はまだ滑り落ちたというか、可愛げのある落ち方だったが、賢治はもう思いっきり転がり落ちたという表現がぴったりだった。

 思いっきり床に背中を打つ。下に居た巫女姫様にぶつからなかったのは幸いといえる。

「……え。……あの、大丈夫ですか?」

 巫女姫様が恐る恐るといった様子で声をかけてきた。

「え、ああ……うん、大丈夫」

 起き上がりながら片手を振る。本当は背中がとても痛かったけど。

「びっくりさせたよね、あははは、ごめん」

 馬鹿みたいに笑ってその場を切り抜けようとする。

「……そうですか、よかった」

 巫女姫様は、そう言った。そう言って、


 笑った。


「…………。あ、ええっと、みこ……大道寺さんは?」

 見惚れていたことに気付き、慌てて声をかける。

 慌てすぎていた。巫女姫様と呼びそうになったことは、大失態だった。

 彼女はすぐにその笑顔を引っ込めて、いつもの無表情に戻った。

「大丈夫です」

 そういって鞄を拾い、立ち上がってスカートのひだをなおすと、

「それじゃぁ、お騒がせしました」

 そういって立ち去ろうとする。

「え、ちょっとまって。顔色悪いけど大丈夫?」

 慌てて聞いても、

「問題ありません」

 彼女はこちらを見ることもなく答えた。

「でも」

「放っておいてください」

 そこまで言って彼女は肩越しにこちらを一瞥した。

「あなたのためにも、あたしのためにも」

 そう言って再び歩き出した。

 今度は引き止めることが出来なかった。



 最後の彼女の言葉にものすごく深い意味が込められていたこととか、流れていた噂が、なんとなく違うものの大体あっていたこととか、そういうことを堂本賢治が知るのはもっと後になる。

 けれども、これが最初だった。

 あのときの笑みに魅せられた。あんなに最初は仏頂面だったのに、最後に、

「あんな風に笑うなんて反則だ」

 階段の踊り場で、ぼけっと座りながら賢治は呟いた。


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