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調律師  作者: 小高まあな
第二章  かつての恋人へのささやかな贈り物
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4−2−5

 堂本賢治が大道寺沙耶の存在を認識したのは、高校一年の六月頃だった。

「あ、あれ巫女姫様じゃん?」

 三限目の自習時間。そうそうにプリントを解くことを放棄した賢治たちは、自習監督が居ないのをいいことに無駄話に花を咲かせていた。

 友人の一人が校庭を見ながら言う。校庭では、どこかのクラスが体育の授業中だった。ジャージの色で同じ学年だとわかる。

「巫女姫様?」

 聞き覚えの無い固有名詞に問い掛ける。

「あれ、知らん? 1組の大道寺沙耶。なんかいろいろ変な噂があってさ」

「そうそう。ええっと、実はあの大道寺財閥の令嬢だとか」

「化け物が憑いていて勘当されたとかっていうのもあるよな?」

「幽霊が見えるとか」

 のりのりで言い合う三人を見つめながら、一言、呟く

「……嘘くさ」

 途端に目の前の三人は白けた顔をした。

「……賢治、おまえのりが悪いぞ」

「別に普通だろ。で、なんで巫女姫様なんだよ」

「巫女っぽいだろ、姫っぽいだろうが。噂が」

「……あー、はいはい。で、どれ」

 くだらないとは思いつつも、そんなに知れ渡っている人の顔がわからないのも悔しい。開いている窓から身を乗り出すようにして外を見る。

「ほれ、あの髪の長いの」

「こっからじゃ見えないけど、可愛いんだぜ、なぁ」

「ああ、顔は」

「……うん、顔は。愛想はないんだよなぁ。だから巫女姫様なんだが」

「ふーん」

 髪が長いことしか認識できなかったが、その髪の長さが

「まぁ、確かに巫女っぽいわな」

 賢治にそういう感想を抱かせた。


 実際に顔を確認したのは、それから二週間ぐらい後のことだった。

 沙耶のいる1組と、賢治の8組とでは教室の階がそもそも違う。合同授業があるわけでもない。

 その間にも沙耶に関する噂はそれなりに賢治の耳に入ってきていた。曰く、彼女が何も無い空間と話しているのをみた。曰く、彼女は今、謎の美女と二人暮しらしい。曰く、その美女の実家は名のある名家だ。などなど。よくもまぁ、そこまでまことしやかに流れていると思ったものだ。

 体が弱いとかで学校を休みがち。それと噂のせいも、あって、クラスにはなじめていないらしい。そんな噂なんて気にしないでつきあってやれよ、とその時は思っていた。

 5階から見下ろした状態ではなく、ちゃんと顔が見える場所で会うまで。

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