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「おー、このクッションまだ持ってたんだー」
沙耶のお気に入りの大きめなクッションに賢治がダイブする。
「これこれ、この感触が好きなんだよなー」
そうだったっけ? と思う。覚えていない。
「でさ、いいの?」
「何が?」
「さっきの彼。沙耶の今の彼氏じゃないの?」
賢治が微笑んで首をかしげる。
「……そんなんじゃないよ」
そ、と賢治が小さく言った。
「でも、もう後悔しないようにね」
「……うん」
含みを持たせた言い方に、素直に頷く。後悔は何度もしてきた。
「賢」
「うん?」
隣に座り、その右手に抱きつく様にしがみつく。
「お願い、もうひとりにしないで」
「沙耶?」
賢治が首を傾げる。
その首筋に腕をまわす。抱きつく。
「沙耶っ」
慌てたような彼の声を聞きながら、ぐっと腕に力を込めた。堂本賢治がどこかにいかないように。
宙をさまよっていた賢治の手が背中に回されるのを感じながら、きつく目を閉じた。
後悔なら、今、している。