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『もっしもーし』
受話器の向こうで明るい声がする。
「賢、今、平気?」
『うん、電話、ありがとー』
電話越しに、笑顔が見える。
夕飯を食べて円達と別れた後、思い切ってかけた電話。こちらはどういう対応をしたらいいか悩んでかけたにも関わらず、賢治は普通に笑ってでた。少し、拍子抜けするぐらいに。
『今日はびっくりした。あの辺り住んでるの? 今』
「うん」
『そっかそっかー。ね、明日の夜時間ある? ご飯でもいかない?』
「うん」
『よかったー、断られたらどうしようかと思った』
約束を確定し、それじゃあ、また明日ね、と電話を切った。
涙がこみあげてきて慌ててきつく目を閉じた。なんで泣きそうなのか、自分でもよくわからない。
本当はわかっている。でも、わからない。