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がたん、がたん、
仕事を終えた沙耶は、事務所へ戻る電車の中で、ドアにもたれかかり外を見ていた。
似ているな、と思う。あの榊原龍一という少年が、かつての恋人に。
容姿も性格も違うけれども。
どこかちゃらちゃらしていた彼よりも、榊原龍一は真面目で大人しそうだ。ただ、芯はとても強そうで、そこがそっくりだと思う。
もう来るなと、突き放したはずなのに、そんなものにへこたれずに訪れたところなんて、彼とまったく変らない。関わらない方がいいと、何度言っても彼は懲りずに話し掛けてきた。
結局、それに負けて付き合うことになったわけだけど。あのときは、それで幸せだたけれども、長くは続かなかった。二の舞になりそうで、怖い。
ふぅ、と一つため息をつく。
ありがとうございました。あの顔と台詞が忘れられない。あんなに一生懸命になってお礼を言うなんて、なんて変わった子なんだろう。
あの一海円が気に入ったと嬉しそうに言っていたのだから、きっと本当に掛け値なしのいい子なんだろう。沙耶は円の人を見る目は信用していた。小学生のころ、一海にひきとられてからずっと、姉のように慕っている円のことは信頼していた。
だからこそ。
目的の駅を告げるアナウンスに、沙耶は扉から体を離し、扉に向き直る。
だからこそ、早く榊原龍一を突き放してしまった方がいい。
ぷしゅー
ドアが開く。外への一歩を踏み出す。
心配なんだ、と告げていた口が、もう無理だと呟く前に、いつかと、堂本賢治の時と同じことを繰り返す前に、はやく、離れた方がいい。