プロローグ
〜Cherryblossoms said "Hello" プロローグ〜
その桜は、あたしみたいだと思っていた。
周りの梅に合わせて必死に咲こうとする。周りに溶け込もうとする。
その桜はあたしみたいだと思っていた。
でも、あたしは桜とは違う。
あたしは、桜と違って何度も花を咲かせることはない。
それでもあたしは桜のようになりたいと、
花を咲かせていたいと、
生きていたいと、そう思うのだ。
第一章 小さな町
世の中には優先順位というものがある。
受験生の彼には、それもいきなり理転した彼には、勉強が最優先だということは疑いようのない事実だった。
だから榊原龍一は、大道寺沙耶のことが気になりながらも問題集とにらめっこする日々を続けていた。
沙耶が記憶を失って、やり直しを誓ったあの時から、数ヶ月がたった。
最初の頃は、割と頻繁にメールしていた。以前はそんなにメールしなかったのに、なんとなく気になってメールしてしまった。まったくもって、今までどおりにできていない。
度重なるメールはもしかしたら重荷になっているかもしれない、と気づいたのは沙耶からの返信が少なくなったからだ。それ以来、基本的にメールは控えている。
そして、いずれにしても、現在の彼はそれどころではなかった。最後の文化祭も終わり、あとは試験へ、大学入試へ向けて邁進するのみだった。
最後に顔をみたのはいつだろう。ふっと、思った。