表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第七章 追憶あげます
103/157

3−7−1

 布団に膝を抱えて座る。

 あれからどれぐらいたったんだろう。ほつれた髪をなんとなく手ぐしで整えながら小さく息を吐く。

 冗談だよ、と笑う直純の姿が浮かぶ。

 恋敵なんだ、俺じゃだめかな、冗談だよ、の流れが冗談じゃないことぐらい、沙耶にだって分かる。

 いつからだったんだろう。全然気がつかなかった。

 ただただ、優しいお兄ちゃんだと思っていた。

 それとも、

「忘れたのかな」

 気がついていたのに、気がついていたことを忘れているのだろうか。

 もう何がなんだかわからない。

 何を忘れているのかがわからないのが、一番怖い。

 大事な事を忘れているのだろう。きっと、もっと、たくさん。気がついていないだけで。

「冗談だよ、か……」

 直純のことは、尊敬しているし、大好きだ。

 でもそれは、家族に対する感情だ。

「せめて、ちゃんと返事したかったな」

 尊敬している、大好きな人だからこそ。でも、なかったことにされたから、それは出来ない。

「意外と直兄ずるいもんな」

 少しだけ笑う。

 ちゃんと返事がしたかった。

 忘れないうちに。覚えているうちに。

 次会った時に、ちゃんと笑える様にしないとな。と思う。

 直純だけじゃない、円にも宗主にもみんなに、ちゃんと笑って対応しないと。これ以上心配をかけないように。

 もちろん、

「榊原龍一君にも」

 小さく呟く。

 彼にこそ、笑って対応しないと。

 でも、それが正しいのかわからない。どういう顔をしたらいいのかわからない。

 思い出すから、と言ったのに。また、がっかりさせてしまう。

 膝を抱える手に力を込める。

 外から声をかけられる。

「どうぞ」

 深く考えずに、咄嗟にそう返事をした。

 ゆっくりと襖が開く。外からの光の眩しさに、目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ