ざまぁ~されてなるものか! 伯爵令嬢殺人事件!?
## プロローグ?
クルンクルンパーナ伯爵家は、王家に次ぐ権威を誇る大貴族ですのよ。
つまり――お金に物を言わせて、やりたい放題、し放題、遊び放題ですの。
ご覧なさいな、この見事なピンクの縦ロール。そして十歳にしてすでに完成された、誰もが見惚れるこの美貌。王家との婚約も、当然の流れというものですわ。
おほほほほ。残念でしたわね、そこの平民のみなさま。ざまぁ~、ですわ。わたくしが王妃となったあかつきには、侍女のみなさまともども馬車馬のように働かせてさしあげましてよ。光栄でしょう?
……ところで。
黒い猫耳をつけた、そこのあなた。ずいぶんと変わったお姿でいらっしゃいますわね。わたくしの屋敷に、何のご用かしら。
「なにか欲しければ、買うがいいのです。でも――どうなっても知らないのですよ~?」
「ふん。伯爵家の財力をもってすれば、大抵のものは――って、あなた、生意気ね! わたくしに対してその口の利き方、よろしくなくってよ。わたくしの力で、あなたの商いを二度とできなくしてさしあげても――」
「これをやるから黙りやがれなのです!」
「う、うんまぁっ、生意気ですわ! 衛兵たち、この無礼者をこてんぱんに――あら。消えましたわ」
……で。押しつけられたこのピンクの毛の塊は、いったい何ですの?
わたくしの髪の色と、そっくりですわね。これは……頭に、のせるモノかしら。
えいっ。
……あら。髪にひっついて、取れなくなりましたわ。
あら。あらあら? わたくし、どうして……眩暈が……。ああっ、たすけ――
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## 伯爵令嬢殺人事件 ―side ミシェル―
「あはは、なんて清々しい空なの。まるで、私を祝福してくれているみたい」
煌びやかに輝く黄金の髪。
透き通るような青い瞳。
見て見て、この学生服。白いセーラーで素敵でしょう?
そして何より、小柄で、思わず守ってあげたくなる可愛らしい美少女ヒロイン。それがこの私、ミシェルよ。
胸は大きいのかって? ――成長期だから。それ以上は言わなくていいの。誰も聞いてないけど、わかった?
「場所は、ここでいいのよね」
私はきょろきょろと周囲を見渡した。校舎裏、花壇のあるこの場所。ここで悪役令嬢アリシアと私が対峙することになっている。
今日は始業式だけだから、生徒はみんな帰宅済み。誰も来ない。人払いのいらない、完璧なイベント会場だわ。
そう――私は知っているの。この世界が純愛乙女ゲームの世界で、私こそがその正統派ヒロインだということを。最初のイベントは、悪役令嬢との衝突。ここから王子様との運命の恋が始まるのよ。
多少強引に仕掛けたって大丈夫。私はヒロインなんだもの。シナリオが勝手に、正しい方向へ修正してくれるはずだわ。
悪役令嬢アリシア。たしか、ピンクの縦ロールに釣り目の、高慢ちきな美少女だったはず。
……あれ、なのかしら?
視線の先にいるのは――ぼさぼさの縦ロールに、天を突く巨大なアホ毛。
ぽわーんと緩みきった顔。
しかも、猫さん柄のパジャマみたいな服。猫さんサンダル?
あなた、学園に何しに来たの? 寝に来たの?
どういうこと?
でも、立ち位置からして、あれが悪役令嬢アリシアのはずよね。隣に控えている全身真っ黒なのは執事かしら。髪も服も靴も、全部黒。オールバックの整った顔立ちだけど、コーディネートという概念が死んでいるわ。
……ひとまず、様子を見ましょう。
「セバス。わたくし、常日頃から思っていたことがあるのです」
「はぁ。お嬢様、どうなさいました」
「見てください、あの空を」
『あほ~ あほ~』
「カラスがお嬢様をご覧になって、実に的確な鳴き声を上げていらっしゃいますが、それが何か」
「わたくしも、大空を羽ばたく鳥さんのように、空を飛んでみたいのです。どうすればよろしいのかしら」
「ご安心ください、お嬢様。すでに飛んでいらっしゃいますよ。――頭がね」
「そうですか、飛んでいますか。では今度、屋敷のバルコニーから飛んでみようと思います」
「おやめください。片付けるのは私なので」
……会話の内容が、いまいち聞き取れないわね。もう少し近づいてみようかしら。
あ。向こうから、こっちに歩いてきた。
来た、来た来た。イベントの始まりね。
曲がり角でぶつかって、「あなた、生意気よ、平民ふぜいが!」と罵られるやつ。それが正しい純愛乙女ゲームの導入というものよ。
いくわよ。――覚悟!
ミシェル、あたーっく!!
ぽすん。
「げふっ!」
――え。
う、うそ。アリシアが。
アリシアが、空に。
「お嬢様がぶっ飛んだ!!」
執事が素の声で叫んだ。私も叫びたい。な、なぜこうなった? 肩よ? 肩を軽く当てただけよ? 接触音、「ぽすん」だったわよね?
「あ~れ~」
当のアリシアだけが、妙にのんびりした声を上げながら、くるくると回転して青空を舞っていく。ちょっと嬉しそうなのが、余計に怖い。
その飛んでいく先には――花壇。
花壇の縁の、レンガの角。
「きゃうっ!!」
ごちん、と鈍い音がして。
「……ぁぅ」
アリシアの頭から、大量の赤い液体がだらだらと流れ落ちていく。
えーと。アリシアさん、仰向けに倒れたまま、ぴくりとも動かないんだけど。
これって……まずく、ない?
「ちょっと、あなた。何をしやがるんですか。お嬢様の頭がこれ以上おバカになったら、どう責任を――って、いない。逃げましたか。……それはそうと、お嬢様、生きてますか?」
「せばす……わたくし、そらを、とべたよ……? ……がくっ」
「おお、お嬢様、しんでしまうとはなさけない!」
私は逃げた。
全速力で。
だって、だって、私は肩をぶつける感じで、軽く当てただけよね? ぽすんって言ったもの。ぽすんで人間は飛ばないもの。あんなに飛ぶほうがおかしいのよ。文句なら物理法則に言いなさいよ。
そう、これは不幸な事故。私のせいじゃない。私のせいじゃ、ないんだからね。
だいたい、私はヒロインなのよ? ヒロインが殺人犯になる純愛乙女ゲームなんて、この世に存在しないでしょ。つまり殺人事件は起きていない。――証明終了。
……はぁ、はぁ。ここまで来れば大丈夫かしら。汗をかいちゃったわ。ポケットにハンカチが――ない。
あれ。
そういえば。アリオス様(アリシアの義弟で攻略対象)のイベントに使う予定だった、イニシャル刺繍入りのハンカチ。ポケットに入れていたはずよね。
ない。どこにもない。
……落とした? どこで?
――どうしよう。
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## 現場
セバスは倒れたアリシアを、その辺で拾った小枝でつんつんとつついた。
「…………」
反応がない。ただの屍のようだ。
「これは困りましたね。とりあえず、現場保存でもしておきますか」
セバスは懐から、どこからともなく黄色い立ち入り禁止テープを取り出し、慣れた手つきで張り巡らせていく。なぜ執事の懐にそんなものが常備されているのか。理由は誰にも分からない。
「おや。これは……ハンカチ? イニシャル入り、ですか。……まさか、犯人は」
セバスは意味深に呟き――それ以上は、何も言わなかった。
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## 後日
――ところで、私のイベントは?
王子様との出会いは? 図書室で同じ本に手を伸ばして、指先が重なるあれは? いったい、いつ起こるの?
なお、世間を騒がせる伯爵令嬢殺人事件の犯人は、いまだ捕まっていない。
……と、思っていたら。
なぜか、アリシアの義弟アリオス様が容疑者として連行されていった。
――なんで?
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## おまけ CM
そして――
伯爵令嬢殺人事件の裁判が、いま、始まる。
無実の罪で起訴された義弟、アリオス。彼はこのまま、縛り首になってしまうのか。
「異議あり!!」
法廷に響き渡る声。弁護士席から鋭く指を突きつけるのは、なんと金髪碧眼の王子様。
「まずい、まずいわよ、このままじゃ……!」
次々と提出される証拠の数々。イニシャル入りのハンカチ。証言台で追い詰められていく美少女ヒロイン。
「あなた、おバカですか? その日その時刻、あなたが校舎裏にいたことは――すでに、立証済みなんですよ」
やれやれと肩をすくめる黒服の検事、セバス。執事はいつから検事になったのか。誰も説明しない。
「ぼくは、ねぇさんをやっていない! 無実なんだ!」
叫ぶアリオス。無駄に格好よく法廷に集結する攻略対象の美青年たち。ざわめく傍聴席。閃光のごとく突きつけられる新証拠。明かされそうで明かされない、事件の日の真実――
果たして、アリオスの無実は証明されるのか。
真犯人は、いったい誰なのか。
そして、消えた悪役令嬢の秘密とは――
次回、「ざまぁ~されてなるものか」に、こうご期待。
『乙女裁判2』 四月一日、発売予定。
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「いやいや、おかしいでしょう! これ、純愛乙女ゲームのはずじゃ――!?」
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アリシア
ミシェル




