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      正しい医学 其の二

普段のこの時刻には人も少なくて明かりも提灯のみだというのに、奉行所は松明がたかれており物々しい雰囲気をかもし出していた。

一真達はあやめを連れて奉行所の門をくぐるとすぐに岩木の姿を探した。


岩木は寺社奉行の元から既に戻っていた。

松明の下で与力達と捕り物の段取りについて話し合っている最中だった。


「父上。ご心配をおかけいたしました」

岩木を見つけるとあやめは小走りに寄っていき浅慮を詫びた。


あやめの無事な姿を見ると岩木は一瞬安堵の顔を浮かべた。


しかし次の瞬間、岩木は派手な音をたててあやめの頬を張った。

傍にいた一真達が受け止めていなかったら、地面に叩きつけられるほどの勢いだった。


「この、愚か者が!お前の勝手に巻き込まれた人間がどれほどいると思っているんだ。当分謹慎だ。獣肉屋にも出入りするな。わしのほうから店には断っておく」


あやめは打たれた頬に手を当てて哀しそうな表情で父を見つめるが、岩木はそれには目を向けることなく一真に尋ねた。

「あやめの救出、苦労であったな。しかし寺社奉行には話はつけてあるのだ。今から乗り込むつもりだったが踏み込む価値はもうないか?」


「いいえ。むしろ出入りしていただかなければ困ります」

一真は冷静に答えた。


それを聞いてあやめが血相を変えて叫ぶ。

「一真殿っ。もうあの寺に用事はないはずでしょう!」

「剣斬丸一派がまだ寺に残っております。そのままにしておくわけにはいかないでしょう」

一真はそう諌めたが、あやめは首を振った。


「あの僧侶たちは蘭医学を学んでおります。それは一所懸命に励んでおります。正規に学んではいないといえ、その学力と熱意は非常に高いものです。父上、何卒お慈悲を」

石畳に手を突いてあやめは悲痛な目で父を見上げた。


「ならんっ」


岩木はそういって用意されている馬に乗ると、供や与力同心達を連れて奉行所から出て行く。

後には崩れたように座り込んだあやめと、一真達のみが残された。


それから、あやめはずっと手で顔を覆い泣いていた。

連絡を受けて屋敷から女中と籠が迎えに来るとうなだれて帰って行ったが、なおも一真達はその場に残っていた。


「あやめ様の気持ち分かるな。住職は悪い人ではなかったし、別に人を殺したりしているわけでもない。ただ、学問を学んでいただけなんだ」

兵庫は同情するようにつぶやいた。


その後、岩木達は寺社奉行所から派遣された与力同心達と合流し寺に入った。

寺社奉行所にしてみても英興寺は本山があるとはいえ金も力もなく、さほど重要な寺ではない。

容易に踏み込ませてくれたのはそのせいもあるのだろう。


しかし剣斬丸は大量の血の跡を残してはいたがその場から消えており、その手下が数人捕らえられたのみであった。

変わりにおびただしい数の臓器と、体の中身が空っぽになった死体がいくつも見つかったのである。

僧たちと住職はその場で捕らえられた。


その後、僧侶たちは江戸払いですんだが、住職はほとんどの罪を被り牢に入ることになったのだ。



捕り物から幾日も過ぎ、一真は岩木に呼び出された。


一真達へのお咎めはなかったものの、あやめはしばらくの謹慎を言い渡されている。

しかし、謹慎があけてもあやめはふさぎこんだまま部屋から出ることはなかった。


月当番で奉行所から出ることができない岩木に頼まれ、一真はあやめの様子を見に行った。





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