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      剣斬丸との戦い 其の二

「よし、入るぞ」

三人は動き出した。

兵庫が扉の前にまわって刀を構える。


それを確認すると一真と安次郎はバンと、勢いをつけて障子を蹴破った。


「なんだ、てめえらっ」

突然の襲撃に賊たちは面食らっていた。


しかし剣斬丸は動じなかった。

一真達を一瞥すると、手下に手でおっ払うような合図を送って向かわせる。

自分はそのまま酒を酌んで飲みながらその一戦の様子の見物を決め込んでいた。


賊の男たちはどれも屈強ななりをしていた。

手に獲物を持つと、すぐに体勢を立て直し、目の前の二人に飛び掛った。

二人はそれを避け、打ち返す。


安次郎は持ち前の反射神経を活かし、避けた瞬間でも空いた隙を見逃さない。

まず一人、男の腕を切った。

一真も、刀を中段に構えると素早い動きで流れるように男達を斬る。

うめき声を上げて転がった手下達をみて、それまで酒を飲んでいた剣斬丸の眉がピクリと動いた。


「へ、おもしろい」


そういって相撲取りのような固太りの体躯を動かし立ち上がった。


「おめえら、あの女の用心棒か。たいしたじゃじゃ馬をお守りしてるじゃねえか」

剣斬丸が刀を抜いた。


他の男たちが子供に見えるほどに剣斬丸は恐ろしく大きく、太い刀はぎらぎらと光っていた。


「安、他はまかせた。俺は剣斬丸と立ち合う」


一真が剣斬丸に一歩近づいた。


「おい、ぬけがけ・・」

安次郎がよそ見をしたところに刀が振ってきた。


危ういところで受けたが、振り向いたときには一真と剣斬丸は一騎打ちの様相に入っていた。


「餓鬼だな。賊に情をかけて急所をはずしたり浅く加減したり。俺にはそういうことは通用しねえぞ」

剣斬丸はにいっと笑い、その黒ずんだ歯を見せた。


「俺は賊じゃないからな。殺す必要がなければ命まではとらない。お前とは違う」


「そういうのが、甘い餓鬼だっていうんだ」


言うが早いか、剣斬丸は襲いかかってきた。

巨漢の割りに素早い動きだ。

刀を上段に持ち上げたかと思うと雷のような速さで一真の頭上を襲ってきた。


一真はとっさに避けた。

空を切った剣斬丸の刀は空を切って畳の上に振り落とされた。


刀のものとは思えないような鈍い音がした。


「はずしたか」

げっげっと笑いながら畳から刀を引き抜いた。


その切り口は畳を突き破って縁の下まで達し、床板は斧できられたかのように砕けていた。


「この刀はなあ、特別誂えなんだ。普通のものの倍の太さ、おまけに刃の角度が少しばかり広いんだ。斧や骨切りみたいなもんだ。斬るより叩く。俺のやり口だ」

そういいながら刀をぶんぶんと振り回した。


一真は構えなおした。

剣斬丸の刀は一真には厄介なものだった。

一度でも受ければ、刀は折れる。避け続けなければいけない。

おまけに巨漢に似合わない速さは大振りした後の隙をすぐにかき消してしまう。


しかし、剣斬丸は剣士ではない。

それが一真にとっては大きな救いだった。



一真は大きく息を吐いた。

精神を集中させる。


半歩下がり間合いをはずした。

「くく、怖気づいたか」


剣斬丸は踏み出した。

同時に一真が下がり、また間合いをはずす。

その動作を何度か繰り返すと、剣斬丸が次第に苛立ちはじめてきた。


「逃げてねえで、たちあえよ」

そういって刀を振り回し突っ込んできた。

難なく一真がそれを交わす。


しかし剣斬丸もすぐに体勢を立て直すと、振り向きざまに飛び掛った。

紙一重の所で一真は後ろに飛んでかわす。


一真は再び構えなおした。

後ろには壁がせまっていた。

これ以上は下がれない。


「観念したか」

剣斬丸は一真との間合いを一歩進んでつめた。


そのとたん、剣斬丸の体は得体の知れない恐怖で固まった。


引っかかってくれたな。

一真は心のうちでそう思った。

同時に一真は咆哮して気合を入れた。


剣斬丸は自分から大きな失敗を招いていたのだ。

油断からか効き足と違う足で一真の間合いに踏み込んでしまい、剣斬丸はわずかだが跳躍を失ってしまったのだ。

この状態では逃げるにも向かうにも、一真の足が速い。


さらに一真は、剣士独特の殺気を漂わせながら切っ先を剣斬丸にあわせた。

青白い闘志を含んだ殺気は、波紋のように広がりうねりとなって押しよせる。


剣斬丸がそれに飲まれた。


「うう・・・」

先ほどまでの余裕は剣斬丸から消えうせていた。


おそらく、腕っ節に頼って奢っていたのだろう。

剣士であれば犯さない間違いである。


「剣は力ではない。まして力に任せて人を殺めるお前のそれは剣ではない。ただの、鉄の塊だ」

一真が、踏み込んで剣斬丸に向かった。


剣斬丸の体が前に倒れるように動いた。


同時に懇親の力をこめた刀が一真の体を襲った。


一真はわずかに体を動かしてそれを避けると剣先を切り上げ剣斬丸の右手を刀ごと落とした。



「ぎゃああああ!」


夜を裂くような大きな悲鳴が響き渡った。

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