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2. 玄関の気配
2. 玄関の気配
部屋に入ると、違和感があった。
エアコンもつけていないのに、やけに空気がぬるい。
閉め切った部屋のはずなのに、どこか“誰かがいた”ような残り香が漂っている。
思わず玄関を振り返った。
……ドアの郵便受けに、何かがぶら下がっている。
──赤い紐のついた小袋。
「お守り」のような形。けれど、表面にびっしりと文字が書かれていた。
> 「帰ってこい」
「帰ってこい」
「帰ってこい」
「帰ってこい」
無数に、筆ペンで。
俺は恐怖に駆られて、その袋をゴミ箱に捨てた。
──その瞬間、テレビが勝手に点いた。
画面には、見知らぬ女の顔が、どアップで映っていた。
「……もう、帰れないんだよ。あなたは……“あっち”で死んだから」
俺は、テレビのコンセントを抜いた。
けれど、画面の中の女は、まだ笑っていた。