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星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
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1-36 目には目を-③

 

 ラシャドは案外素直に相手の情報を明かした。

 それがマナには少し意外だった。ラシャドが何を考えているのかは分からないが、それが決して悪いことではないので特に追及はしない。


 普段通りのラシャドであれば今でもまだ雑談が続いていたであろうに。

 それだけ、“敵”は危険だということの裏返しでもあるのだろう。


「この男に対しての情報は多くない。裏を返せば、俺たちのような裏側に関連する奴か、もしくはそれよりヤバい本業かってとこは推測できるけど、分からないのは実力と、行動の理由かな」

「行動の理由? ただの快楽殺人目的じゃないの?」

「推測でしかないから話半分に聞いてほしいんだけど、可能性として、彼の計画はもっと前から進められていたように思う」

「どうして?」

「そうじゃないと、クロガネ君を標的にする理由が無いから」


「あ」とマナは目を見開いた。

 思い返せば、クロガネはこの街に来てからも日が浅く、かつ、クロガネの名が広まった要因となる出来事は赤竜との戦いだ。


 要は、クロガネを標的にする理由というのは必然的に絞られてくる。


「まさか、赤竜の行動もあの男の計画の内だったと……?」

「あくまで推測、ね。ただ、そうとしか考えられないというのはある。クロガネ君も、あの『夢』の出来事と男について証言した時、男から『この街から出ていけ』と警告されたと言っていたんだよね?」

「……そう、ね」


 それはマナとミナも直接聞いていた話だ。

 クロガネが『夢』の出来事を話した時、あの場にはクロガネとエフレイン、その周囲にマナ、ミナ、及び協会職員数名だけだったはずだが、ラシャドはどこから情報を仕入れているのかというのはさておき。

 確かにクロガネは、男からそう警告されたと言っていたのは事実だ。


「となると、考えうる限り最悪のシナリオを憶測で語ってもいいなら」

「……あの男は、赤竜を使ってこの街に何らかの被害を与えようとしている……?」

「或いは」ラシャドは一呼吸おいてから、口を開いた。「この街を滅ぼそうとしている、とか」


 三人の周囲を、静寂が包み込む。

 ラシャドはこういう時に冗談を言うタイプではない。雑談の中では気さくな彼も、仕事の会話に軽口を挟むことはしない。そんな彼がマナの目を真っ直ぐ見て言うのだから、それは冗談などではなく、実現する可能性が高いということだ。


「となれば、最悪の場合、彼の実力は赤竜と渡り合えるほど。当然、単体の実力はS級冒険者と同等、いや、それ以上か」

「だから、私たちでは勝てない?」

「そうだよ」


 ラシャドは、これまた間髪入れずにそう言った。

 ミナは思わず眉を顰めるが、対してマナは冷静だった。倒せないのであれば、それなりの戦い方というのもある。力で敵わなければ魔法、それでもだめなら毒、それすらダメなら、最後の手段だってないわけではない。


「結局のところ、冒険者協会の定めたS級という枠に収まっている時点で、その程度だということですよ」

「……」

「事実、S級程度では冒険者本来の存在目的である探索業務についていけない。あまり有名ではないけど、二人なら聞いたことはあるでしょ?」


 ──そう。

 冒険者たる所以である未開拓領域の探索業務、これには冒険者協会の推薦が必須だが、冒険者等級については言及がない。

 前向きに捉えるのであれば、誰しもが推薦される可能性があると言える。だが実際は、S級という最上位の枠ですら持て余すほどの逸材でなければ、探索業務は務まらないというのが事実だ。


「僕が思うに、今回のは本当にやばい。実際、クロガネ君のようなまぐれではなく、正面から赤竜と相対して戦えるという実力ならばそれは明らかにS級の域を超えている。実際、それほどの戦闘能力が無ければ赤竜の行動を操作するだなんてことはできるわけもないから、それほどだと思っていた方がいい」

「うん、分かった」


 マナは表情を崩さずに、ラシャドの目を真っ直ぐに見つめた。


「でも、だからと言ってやめるという選択肢はない」

「本当に、やるのかい? ミナ、君はどうなの?」

「私は……」少しの戸惑いを隠しきれてはいないが、だがその瞳は一切揺らいではいない。「怖いけど、やるしかないんだから、やる。これまでだって私たちはそうやって生きてきたんだから」


 ラシャドは黙って二人の目を見た。

 仕事柄、人の感情の機微や本音と建前を見分けるのが上手い。そんな彼だからこそ、二人の目は一切嘘を言っていないということがはっきりと分かった。


「……、分かったよ。僕の方で、もう少し調べてみる」

「ありがとう」

「…………君みたいな優秀な人が、ここまで心酔するなんてね。クロガネ君も隅に置けない」

「……ん?」

「マナ、ミナ。無理はしないこと。死ぬことを前提とすることだけは許さない。これだけは約束。じゃないと、僕は君たちの依頼を受領しないし、死んだらクロガネ君に多額の借金を背負わせるから覚悟してね」

「あ……分かった。うん。……ありがとう」


 そう言うとラシャドは立ち上がって、ウインクした。


「じゃあ、僕はこれから早速仕事するから、またね」


 その直後、景色がぐわんと歪み、気が付けばマナとミナは武器屋の裏手に戻されていた。

 そしてそれを待っていたと思しき武器屋の店主は、二人に包みを手渡す。


「こちら、ラシャド様からです」

「ん……?」


 その包みの中にあったのは、一対の装飾品だった。見た瞬間に分かる、濃密な魔力。ただならぬ効果があることはすぐに想像できた。


「二核一対のペンダント。半球形状の宝石スフェーンがそれぞれに埋め込まれています。効果は一度限りの蘇生。ただし、これを身につけた二人が近くに居なければその効果は発揮しません、また、身に着けている二人の内一人しか効果は適用されません」

「私たちにぴったりだね」


 とミナは笑った。

 すると、武器屋の店主は優しそうに笑い返した。


「ええ。ラシャド様は、始めからあなたたちに渡すためにとご用意されていました」

「……それ、なんて冗談?」

「…………おっと。口が滑りました。今のは聞こえなかったことに」

「ふ。了解」


 そう言葉を交わしたのち、二人は細い通路を抜け、武器屋を後にした。


 ──本当に、その直後だった。


 武器屋を離れてすぐの位置にある、幅広い通りに繋がる路地に、一人の男が立っていた。

 服というより、ボロボロの布切れという方が的確な装いのその男は、右手に何かを持っているのが見えた。


 だが、広い通りから差し込む光によって逆光気味で、すぐには判別できない。


 思わず立ち止まって、ミナは首を傾げた。「……誰だろ、あれ」

 そう言ったのが聞こえていたのかは分からないが、その男は突然、右手に持っていたそれを投げて寄越した。


 かなり重量がある物のようで、ドッと鈍い音と共に、二人の足元にそれは転がった。




 ラシャドの頭部だった。




「あ」


 マナが咄嗟に視線を上げた時には、その男は目の前にいて。

 そして、ミナの頭部が切り落とされ、宙を舞っていた。


「二核一対のペンダント。素晴らしい代物だが、知っているかね? これは、死ぬときの痛みや感覚を遮る、いわゆる痛覚遮断、感覚遮断のような効果はない、ということを」


 その男は、いや、男というより老爺という方が的確な彼は、ぐにゃりと笑った。

 刹那、その老爺はミナの胴体を勢いよく蹴り飛ばす。当然、抗うことのできないミナの身体は蹴飛ばされた小石の如く地面を跳ね、そのまま建物の壁面を突き破った。


 すぐにマナは悟った。


 この男が、倒すべき存在であるということを。

 そして同時に──このままでは確実に殺される未来を。





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