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星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
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1-33 失意

 

 瞬く間にセスタとククリが殺されたという話題は街中に広まった。

 どれだけ耳を塞いでいても聞こえてくるほどに。


『あの夢』から三日が経過した。


 シユウのパーティは実質的な解散が決まっていた。

 盾士のバルトは自己申告による脱退。最終的にシユウとナリィの二名となったパーティに対し、エフレインから継続不可の命令が下ったのだ。


 最後までシユウはそれに反対したが、ナリィや周りの説得により渋々受け入れ、その後宿の自室に籠りっきりだという。

 ナリィに関しては夜間になると極度の恐怖に襲われ、現在は冒険者協会内部にて保護、療養している状態だった。


 赤竜に怯えるカルファレステ街に、更なる追い打ちをかけるかの如く襲いかかった全く別の「敵」。

 エフレインを始めとした冒険者協会はその犯人を突き止めるべく動いている。


 そしてそんな中、犯人の第一候補として拘束されているのが、クロガネだった――。




「……」


 冒険者協会の地下一階。地上の階とは打って変わって鬱屈としたその空間は、まさしくクロガネの想像通りな『監獄』だった。

 地下らしいじめじめした空気、石造りの壁、鉄格子。明かりは点々と配置された小さなロウソクのみで、かなり暗い。


 地下に入って、百メートル以上は続く直線。その突き当りにある部屋にクロガネは入れられた。

 両手両足には手錠。歩く分には支障はないが、走るには厳しい鎖の長さ。考えられてるな、なんて思いながら、開けられた扉を自らの意志でくぐる。


 当然、装備品や赫灼剣は没収済み。


「……赤竜を撃退させるほどのあんたが、こんなことするとは思わなかったよ」


 そう言ったのは、クロガネは面識のない男だった。だがその装備や風格的に、かなりの実力者であることは間違いなさそうだ。


「…………」

「本当に、お前がやったのか」

「……やってない、って言っても、あんたらは信用してくれないでしょ」

「——まぁ、そうだな。忘れてくれ」


 クロガネが扉をくぐって間もなく、軋んだ音を立てて監獄が閉じられる。

 その男はクロガネを一瞥して、何も言わず立ち去った。


「……落ちぶれたなぁ、俺も」


 ──クロガネが『夢』の中で見たあの景色はまさしく事実そのものだった。そのため本当にあれが『夢』なのかといわれると微妙なラインだ。寧ろ幽体離脱のような現象の方が似通っている気がした。


 だが、その事実確認が(あだ)となった。


 クロガネが犯人に疑われる理由の一つが当然、犯行現場の詳細な内容を把握しているというところだ。

 さらに言えば現場にはもう一つのクロガネに通ずる手掛かりがあり、それは部屋の一部が炭化していたことだという。


 魔力の痕跡を辿れば、それが赤竜に近似した特徴的な魔力であったことはいとも簡単に特定できた。

 そしてこの街に、そんな武器を持っているのはクロガネしかいない。


 この赫灼剣に関してもクロガネには心当たりがあり、実際あの『夢』から覚める寸前と、目覚めた後の赫灼剣の挙動を見ればそうあっても不思議ではないのだろう。

 そんなクロガネの冷静な反応が犯人のように映ってしまったのだろうが。


「……」


 クロガネは自身の胸元に手を当てる。

 本来なら、そんなに冷静でいられる訳がない。だがクロガネの心臓はやけに穏やかに鼓動を奏でる。


 ……『夢』以降、クロガネの感情は意図的に抑えられているかの如く平坦で、良くも悪くも冷静だった。

 それが犯人の疑惑をかけられる要因であることは把握していたが、だからと言って自分の意志ではどうすることも出来なかった。


 分からないことばかりだ。

 全てが突発的で、後戻りの効かない出来事の連続。

 クロガネの脳はパンク寸前のはずだというのに、だが心はやけに冷静で思考は働く。

 気味の悪い感覚だ。


 そんな状態で思考を重ねれば重ねるほど、本当は全てがクロガネの仕業だった事実を見つけてしまいそうで、それならいっそ犯人扱いされた方が今のクロガネには気が楽だった。


「はぁ」


 そこまで考えて、クロガネは首を振る。

 今考えるべきはそれではない。


「あいつ、これからも誰かを狙う気なのかな……」


 ──くろがねぇ。これは、俺からの警告だ。

 ──大人しくこの街から出ていけ。ここは、俺の遊び場だぁ。


 あの男はそう言っていた。

 分からないことだらけだが、あの犯人の行動の目的が最も謎だ。


「…………俺に、警告する、理由」


 クロガネよりも厄介な冒険者はいるはずだ。赤竜と戦えたのも、周りへの被害を考慮する必要のない荒野での戦闘だったというのが一番の理由だ。

 それだけ大規模な魔法を警戒するなら、人通りの多い街中で戦えばいい。仮にそうなった場合、クロガネは恐らくかなり、弱い。


 結局、今のクロガネは魔法頼り。それが使えなければどうということはないだろう。

 自分でいうのもあれだが、対人戦や剣でも戦闘は素人である。


「殺そうと思えばすぐ殺せるだろうに、それをしない理由」


 分からない。

 情報が少なすぎる。


 クロガネは監獄の壁にもたれかかり、膝を抱えて座った。


 考えすぎるのはよそう。

 クロガネに出来ることはない。下手にクロガネが動いても、また関わりのある人に被害が及ぶ可能性がある。

 今はこれでいい。


 今は──。


 その時、クロガネの脳裏に思い起こされる、二人の最期の姿。

 二人の顔。

 それでも揺るがない、クロガネの心。


 もっと怖がるべきだ。

 もっと罪悪感があって然るべきだ。

 だというのに、この平常心。


 気が狂いそうだ。


 クロガネは頭を抱えて、蹲るほかなかった。



 


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