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1-25 おでかけ-①

 

 クロガネの新しい部屋は、以前までの部屋の二倍は広かった。

 とても広々としており、かなり開放的だ。天井も心なしか以前よりも高く見える。


 クロガネも部屋着に着替えベッドに腰掛ける。

 ベッドが柔らかい。すごくいい。


 部屋にあるベッドは二つだった。マナとミナはぴったりくっつけようとしていたが、それだけは全力で拒んだ。

 今更のような気がしなくもない。


「ところで」とクロガネは二人を見た。「前から思ってたけど、なんか二人、やけに距離近くない……?」

「不満?」マナは首を傾げながらそう言った。

「いや、不満とかではないけど、その、こう。仮にも男女ですよね? というか」

「あれ、言ってなかった?」

「何が?」

「これ、エフレインからの指示……」

「……おーん」


 なんか素直に喜べない感じの情報が出てきてしまって、クロガネは顔を手で覆った。


「それ言っていいやつ?」

「……あ。言うなって言われてたかも」


 てへ、とマナは舌を出した。


 実際、二人は不自然なほど初めからクロガネの近くにいた。

 まぁ、医務室が格好のサボり場所だったという話が本当であれば、目覚めて最初に関わるのが二人であったのはまぁ、あり得ない話ではないのだろう。

 だがソラマメ亭にまで着いてきた辺りからおかしいとは思っていた。


 とはいえ、仮にも女性が近くにいて悪い気がするわけもなく、クロガネはそれらを頭の端に押し込めていたのも事実ではある。

 これを言ったら二人はますます調子に乗るだろうからと、クロガネは決して口には出さないのではあるが。


 が。

 それらがエフレインの指示だったというのは流石に哀しい、というより虚しいというのが本音だ。

 結局初めからエフレインの掌の上で転がされていたということなのだろう。


 そこで「あ」と発したのはミナだった。「でもエフレインから頼まれていた期間ってもう終わってるよね?」


 ん? とクロガネは首を傾げた。


「どゆこと」

「エフレインから頼まれていたのって、クロガネ君が街の宿に泊まるところまでだったの。ライカンスロープの件で予定よりも前倒しではあったけど」

「……ん? じゃあなんで今もここに?」

「え? そんなの一緒に居たいからじゃ〰〰ん、言わせんなぁ」

「………………ま?」


 下げてから上げてきた。

 単純に油断していたし、まさかそんな返答が来るとも思っておらず。


「……う」


 クロガネは赤面した。


「あ!! クロガネ君の赤面!!」

「ちょ……っ」

「ダイジョブ。隠さなくていい。赤面は恥ずかしいことじゃない」

「うわ! 力つよ!!」


 思わず両腕で顔を隠すつもりが、マナとミナに力づくでこじ開けられてしまった。さすがは冒険者。

 そんなで三人してじゃれあった後、顔を見合わせて思いっきり笑った。


「よぉしそしたらクロガネ君?」

「え、何?」


 ミナがずい、とクロガネに顔を寄せて言った。


「明日の予定は空いてるかな!? 空いてるよね!?」

「んーと、明日は……」


 ……なんかあったな?


「あ、デートの予定が」

「「なんだって?」」



 ◇



 午前九時頃。

 身支度を整えたクロガネがソラマメ亭を出ると、丁度向こうからレイラが歩いてくるのが見えた。


 クロガネが手を振ると、レイラも手を振り返した。


「おはようございます。クロガネさん」

「おはよう。クロガネ様……じゃないんだね」

「あれは受付嬢の時だけです。今日は休暇ですので」

「なるほど」


 レイラは私服だ。当然である。休暇なのだからそれが普通だ。

 だがクロガネにとってはこれが中々普通ではない。

 というのも、この街に来た当初から面倒ごとに巻き込まれすぎて、あまりゆっくり出来てはいない。


 とはいえ街に出たのはこれが初めてでもないが、基本的には単独行動だ。

 誰かと一緒に街を回る――すなわち『デート』はこれが初めてである。


「では、早速向かいましょうか。本日の予定としては、午後六時頃までを目安に街を見て回ろうかと思います」

「うんうん」

「まだ生活用品や衣服関係などもあまり揃っていないでしょうし、その辺りも購入しながらにしましょう。あくまで今日はクロガネさんの口止め……おほん。手助けとなればと思います」

「うんうん。本音が漏れ出ちゃったね」

「なんか取り繕うのめんどくさくなってきました」

「レイラさんってもしかしてかなり面白い人?」

「あくまで表面上は取り繕っておきますか?」

「ふふ。いや、素でいいよ」


 実際、クロガネにとってはこれぐらいの方が丁度いい。

 レイラとは昨日が初対面だ。いきなりデートだのなんだのというより、口止めを兼ねてのお出掛けなのだと明言してもらった方が幾分かマシだ。


「ふむ。そういうものですか」

「ほら、そろそろ行きましょ」

「そうですね。……ところで」とレイラはソラマメ亭の入り口に視線を向けた。「あの二人はどういたしましょうか」


 そこには凄い形相でこちらを睨みつける二人の女性がいた。

 どう見てもマナとミナである。


「レイラさんが構わなければ、一緒に来たそうだったよ」

「私は構いませんよ?」


 そう言った次の瞬間だった。


「恩に着る」「ありがとー受付嬢さん!」

「んっ!?」


 移動してきたとか、走ってきたとか、そういうのを遥かに超えた速度で、気が付いた時にはクロガネとレイラに並ぶように二人がいた。

 物音ひとつせずに数十メートルは離れた位置を移動する。やはり冒険者。それも手練れだというのは噓偽りないのだと見せつけられるようだった。


 というか、暗にクロガネはマナとミナの二人からは逃げ切ることは出来ないのだぞと言われているような気もした。

 二人の顔は笑っているが、全然笑っていない目でクロガネを見ている。

 変な冷や汗が流れた。


「こほん」とレイラが咳をひとつ。三人の視線が自然とレイラに集まる。「では早速、向かいましょう」

「最初はどこ行くのー?」

「まずはクロガネさんの私服でも買いに」




 大通りを進んでいると、多くの人とすれ違った。

 曜日など気にしていなかったが、どうやら今日は七耀。日本でいう日曜日に当たる日だったようだ。

 この世界では月曜日から日曜日までの一週間、すなわち七日間を一耀から七耀と呼び分けている。


 とはいえ、冒険者業には曜日によって休むという概念がないので、本当にマナやミナは気にしていないようだ。


 やや人は多いが、それでもほとんど予定が崩れることなく店を回っていく。

 最初の衣服店では三人の着せ替え人形になった気持ちでとにかく着替えまくって、約一時間で結構な量の衣服を買った。


 そのうち、見事クロガネの好みを引き当てたマナの服に着替えてデート……デート? は継続する。


 日用品や装飾品を見て回っていると、あっという間に太陽は頂点に達していた。

 洒落た雰囲気の店でゆったりと昼食を摂り、そして午後。


「それでは本日の大本命」

「ん?」

「武器屋で向かいましょう」

「おお!」


 クロガネとしたことが、何故今までこの存在を忘れていたのだろうか。

 魔法しかロクに使っていなかったのは確かにクロガネではあったが。


「装備品には様々な魔法を付与することも出来ますので、これを機にしっかり装備を整えましょう」

「へぇ、そんなのあるんだぁ」


 と、何気なく返したところで動きを止めたのはマナとミナだった。


「え。クロガネ君、魔法装具を知らないの……?」

「魔法装具?」

「……素の身体で、赤竜と二度も戦い、生き残ったと」

「ん? ん?」

「うわぁ、かなりキモイよ。かなりキモイ」

「流石にそれはかなり気が狂ってるね。かなり気が狂ってる」

「なんで二回言ったんですか!?」


「それも致し方ないと思います」と言ったのはレイラだった。「冒険者は基本装備として魔法装具を使用するのが一般的です。少しでも生還率を高めるために開発されていますし、実際これの有無でかなり生還率も上がれば戦闘能力も可変します」


 そんなにかぁ、と、どこか他人事のような返答をするクロガネを見て、マナとミナはがっくりと肩を落とした。

 余程クロガネの反応が信じがたいものであったらしい。


 にしても魔法装具、初めて聞く名前だ。


「ここらで装備一式を新たにそろえる必要性があるかと思われます。それに、サプライズも用意していますので」

「サプライズ?」


 思わずクロガネが聞き返すと、レイラはふふっ、と微笑みながら「見てのお楽しみです」と言った。



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