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星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
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1-18 笑い合うには十分な結果-②

 

 ライカンスロープを追っ払ってからはそれはもう平和だった。

 そもそもこの森——いや、タングリア旧都跡という場所は本来、モンスターの数がそう多くないのだという。

 かつ、ライカンスロープよりも下位の魔物がメインだったため、先日のライカンスロープの群れと赤竜の往来によってここに巣食っていたモンスターの大半は逃げ出したか、奥深くに隠れて出てこないそうだ。


 なるほどなぁと思いながら、クロガネはぽつりと孤独に周囲の警戒に当たっていた。


 寝ていないうえに、調子乗った必殺ビームで魔力は枯渇間際だ。

 体調的にはすでに限界なのだが、如何せん警戒できる人数に余裕がない中ではあるためクロガネも休んではいられない。


 同時に、自業自得だが必殺ビームでかなり引かれたため近付き難い、そう、お互いに近付き難いのである。


「なーにやってんだろーなぁ俺……」


 今更悲しんだところで後の祭りだ。

 そんなことを考えても意味がないのだと頭では理解しているが、心は頑なに理解しようとはしてくれなかった。


 ミナなら話し相手になってくれるかな、と淡い期待も抱いたが、治癒魔法の心得があるということで残念ながらそうはならなかった。


 太陽は間もなく直上。

 救援が来るなら早ければ間もなくだろうか。


「早くこねぇかなぁ」

「何がだ」

「助けに決まってるでしょーがー」

「そうだな」

「……ん?」


 今誰と話してた? クロガネは勢いよく横を見ると、そこには鎧の男がいた。

 驚いて顔をまじまじと眺める。


「なんだ。言いたいことでもあるのか」

「…………いや、まさか話しかけてくるとは思わず」

「俺は、別にお前が狂人だろうと関係ない。結果的に助かっているからな」

「それは、どーも。まぁ、気が狂ってたことは否定しないけど」

「……ちゃんと休んでるか。疲れてるだろ」

「この状況じゃ休んでられないでしょ」

「……お前」鎧の男はニッと笑った。「若いのに、ガッツあるな」

「へへ。ありがとうございます」


 クロガネもニッと笑い返す。


「そういえば自己紹介してなかったですよね。クロガネです。よろしく」

「俺は、ダリル。よろしく」

「よろしく! ダリルさん」


 手を差し出すと、ダリルは特に躊躇いなく握り返してくれた。

 ああ。コミュニケーションが取れるって素晴らしい。


「ちなみに」

「なんだ」

「ダリルさんって、パーティ組まれてるんです?」

「組んでいない」

「一人かぁ。冒険者の、ランク? ってあるんです?」

「等級、な。一応、S級だ」


 S級! 凄いやつ、というイメージは何となく分かる。

 だがこの等級、どういう分類なのだろうか。確かシユウはパーティランクがC級と言っていた。

 パーティランクと冒険者の等級は別物なのだろう。

 まぁ、この辺は協会で説明があるとして。


 ふと、違和感を感じた。

 そういえばこの世界の言語にCやSといったものがあっただろうか。

 厳密にいうならば、アルファベットが存在していた——だ。


「なんか、こんなこと聞くのもお門違いな気がしなくもないんですけれど」

「なんだ」

「S級とかの等級って、誰が定めたんすかね?」

「……知らん」

「ですよね」

「詳しくは、な。朧げだが、かつてこの世界に居た異世界人がそう決めた、とは聞いたことがある」


 なるほど? と思った。

 その異世界人が、クロガネの知っている地球の人なのかはさておき、仮にそうなのであれば理解できる。

 世界に存在しない言語をわざわざ採用する理由がない。


 そして同時に、この世界にはクロガネ以外にも地球のことを知っている人間がいる可能性が出てきた。

 どちらかというとこちらのほうが気になる、が、下手に聞くべきではないような気もする。


「なるほど」

「協会にでも聞いてくれ。こういうことはあまり分からん」

「りょーかいです」


 そこで、ダリルが何か言おうとした素振りを見せた。

 すぐに口を閉じてしまったが。


「……何か聞きたいことでもあります?」

 ダリルがむっと眉間に皺を寄せた。失敗だったか? と思ったが違うようだ。「よく見てるな」

「無視したほうが?」

「いや、そんなことはない」そこでダリルは一息空けてから口を開けた。「……剣術は、誰かから習っているのか」

「剣術? いえ、全然。ほとんど独学ですよ」

「そうか」


 ダリルは頭を掻くと、クロガネを真っ直ぐ見ながら言った。


「……俺でよければ、教えようか」

「え。え! え!! マジですか!?」

「お、お……う」

「め、めめ、めちゃくちゃ、有難すぎます……でも、どうして?」

「どうして、と言われると、分からん」

「ええ?」

「勘だ」


 勘かよ、とツッコみかけたが、すんでのところで思い留まる。

 例え勘であれ何であれ、剣術の師匠が思わぬところで見つかった幸運と、S級というどう考えても高ランクな人間の勘は信じてもいい。

 そう思った。


「なんにせよ、感謝です……」


 クロガネはそういいながら拝むような仕草をすると、ダリルはどこか照れた様子で視線を逸らしていた。


 ——がさ。


 その音をクロガネとダリルは聞き逃さなかった。咄嗟に腰の剣を掴み、戦闘態勢を取る……が。


「お、抜け……あ! 発見! 発見!!」


 茂みから出てきたのは見覚えのある顔だった。


「って、あ! クロガネ君! ダリルさんまで!」

「シユウさん!」


 シユウはこちらを視認するや否や、慌てた様子で駆け寄ってきた。

 そのままクロガネとダリルの前で立ち止まると、勢いよくクロガネの肩を掴んだ。


「大丈夫!? 怪我は!?」

「え? いや? 大丈夫、だけど」

「戦いが終わっても冒険者協会に戻ってこないから、てっきり、死んだかと……」

「エフレイン支部長から話は?」

「聞いたが! この目で見るまで信じられないだろう!」

「ごもっとも……」


 シユウを始めとして、その後は続々と冒険者たちがこの更地の中に入ってくる。

 確かにエフレインの言うとおり治癒士がいるのは確かだが、それにしても結構な人数だ。ざっと二十人以上。

 怪我人一人につき治癒士一人の人数だ。


「これで一安心だな」


 と言ったのはダリルだ。

 彼もずっと気を張っていたのだろう。途端に肩から力を抜き、天を仰いだ。


「本当にお疲れさまでした! ダリルさん!」シユウは、今まで見たことがないぐらいにピシッとした格好で話していた。「後は我々にお任せして、休憩しててください!」

「ああ。助かる」

「クロガネ君も、休憩してくださいね!」

「あ、うす」


 それからはあっという間だった。

 ものすごい速度で怪我人の治療が終わり、シユウ達が来てから僅か三十分後には森の外に向けて動き始めたほどだ。


 そこからおよそ一時間弱で森を抜ける。


 シユウ達が最短距離の道を整備し、歩きやすくしてくれていたためだ。

 かつ、一度もモンスターの襲撃が無かったことも大きい。


 森を抜ければ全員が乗れるだけの馬車があり、至れり尽くせりだ。

 そのまま馬車に揺られて、カルファレステ街へと帰還した。




 ――――その後、クロガネは冒険者協会に着くと同時に意識を失って、そこからたっぷり三日間眠り続けた。






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