表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
26/37

1-12 会敵

 

 エフレインの言葉通り、クロガネとシユウの会話の後、そう時間は空かずに出発となった。

 ぞろぞろと冒険者たちは協会から出て、大通りを歩く。

 クロガネとシユウは、その最後尾付近を歩いていた。


 時間的にはもう夜中だ。

 夜明けまでもまだまだ時間があり、少なくともライカンスロープ相手に戦うには圧倒的に不利な時間帯でもある。


 だがそれでもこの時間に向かうということは、時間的な余裕がどれだけあるのか定かではないが、少なくとも明日の朝ごろには街に到達する勢いなのだろうとクロガネは想像した。


 そうして歩いていると、通りの途中でも次第に人数が増えていく。

 シユウと同じく、パーティメンバーに道具の買い出しを頼んでいたということなのだろう。


 当然、シユウのパーティメンバーも途中で合流する。のだが。


「げ」それが出合い頭の一言だった。「なんでこいついるの」


「悪かったね俺なんかが居て」

「精々足手まといにならないでよね」

「こら、ナリィ……流石に失礼だぞ」


 どうせ素直に自己紹介はしないだろうと、シユウは事前にパーティメンバーの名前や性格などをクロガネに共有していた。

 この性格についてもシユウは把握済みだと考えると、気苦労の絶えないリーダーなのかもしれない。


 ライカンスロープを倒した時も、そして今も話した、不満を隠そうともしない魔法士の女子、ナリィ。

 それ以外に、二人の女子は槍使いのセスタと弓使いのククリ。

 ナリィと同じ感じで接するべし、とのことだった。そしてこの三人は単純に若い。女性というより女子だ。

 そしてシユウともう一人の男は、バルト。盾士だという。


 戦闘時はバルトが先頭に立ち、中間にシユウとセスタ、そして後方にナリィとククリが配置するようだ。


「まぁ、臨時加入だから、いないものとして扱ってもらって結構ですんで」

「そう? 楽でいいわね」といったのはセスタだった。

「射線上にだけ入らないでくれればそれでいいわ」といったのはククリだ。


 つくづく、クロガネのことが気に入らないらしい。クロガネは震える拳を何とか抑え、シユウも非常に困った表情でクロガネと女子たちを交互に見ていた。

 理不尽な返答しかされない前提で会話を進めないと、クロガネも苛立ちで戦闘どころではなくなってしまいそうだ。


「すみませんね。バルトです。よろしく」


 バルトは、同じ男同士だからか態度は柔らかい。普通のことなのにとても気分がよく、有難い。

 クロガネはバルトに手を差し出すと、笑顔で握手してくれた。


 シユウからも言われてはいたが、女子との距離感さえ間違えなければ事故は起こらなそうだと感じた。



 ——さて、そうしている内に一行は街の外周部に到達する。

 街中でも結構な人数が合流したが、外周部にはそれと同等か、或いはそれ以上の人数がいた。


 総勢でおおよそ百と数十名。

 必要十分にも感じるが、ライカンスロープは単体ではなく群れであること、そして夜間戦闘であることを考慮すれば妥当か、少し心許ないぐらいだろうか。


 外周部にはそれらの人数が十分に捌けるほどの馬車が止まっており、準備は万端だといった雰囲気だ。

 先頭にいたパーティから順次乗り込んでは、その順に出発していく。


 その時だった。

 ……ちり、と。

 ふと、クロガネは街の外、闇夜に包まれた景色から何か嫌な予感を感じ取る。


「ちょっと、何突っ立ってんのよ」


 ナリィが苛立ちを隠そうともせずにクロガネに声を掛ける。

 だが、数秒、数十秒と経過するごとにその嫌な予感の輪郭が明瞭となっていく。


「ねぇってば!」

「どうした? クロガネ君」


「なんか…………来る」


 クロガネがそう言った、まさに直後のことだった。

 突如空中にボアッ、と光源が現れる。真っ赤なその光源を見て、クロガネが背筋が凍った。見覚えのある光だからだ。


 そして最悪なのは、それに示し合わせたかの如く先頭を進んでいた馬車から悲鳴が上がった。


 ライカンスロープの報復?

 違う。そうではないのだ。



 音もなく放たれた光源は静かに地面に向かって進み、そして、爆発が起きた。

 闇夜の中に、煌々と炎が拡がる。



「赤竜…………」


 ライカンスロープは報復しようとしていたのではなく、赤竜に追われていたのだ。

 いや、もっと的確に表現するのであれば。

 赤竜は意図的にライカンスロープを誘導し、この街に向かわせていた。


 街中にライカンスロープを放ったであろうその時から想像できたことではあるが、赤竜には明確に知性のようなものがあるのだろう。


 クロガネはこの戦闘が始まって間もなく、最悪の結末が脳裏に浮かび上がった。



 冒険者の敗北。

 カルファレステ街の——壊滅。



 あまりにも明瞭な最悪の未来の景色がぞわりとクロガネの背筋を突き抜け、危うく思考が止まりかける。


 だが、まるでそうなることを知っていたかの如く、クロガネの背中に誰かの手が添えられた。

 ふわりと、陽気がクロガネを包み込む。


「アマテラス……?」

「クロガネくん。こんなところで躓いてる暇、ないよ」

「……」

「赤竜なんか比較にならない化け物を君は倒さなければならないんだから――」


 クロガネが振り返った時には、すでに気配は消えていた。

 それが少し寂しくもあり、同時に、クロガネの覚悟は決まった。


「な、今のは——?」と驚くシユウ達を横目に、クロガネはゆっくりと魔力を練る。

 そして。


「ふぅ」その魔力を一点に収束させる。「——ッ」


「は!? なにあれ!?」


 と叫んだのはナリィだった。魔法士であるナリィだからこそ明確に分かる、クロガネの異質なまでの魔力。


「魔力親和性が、高すぎるの……!?」


 だがそんなナリィの声は、クロガネには届いていなかった。

 それもそうだ。普段の数倍もの魔力を練り上げたクロガネの周囲には、本来であればありえないほどの余剰魔力が吹き荒れていた。


 かつて一度も実行したことのない、周囲への配慮の一切を排除した本当の意味での、『全力』。


「ライトニング——」


 ぞくり、とシユウの背筋を悪寒が通り抜けた。

 それほどの魔力量。


 咄嗟にシユウは「耳を塞げ!」と叫んだ。


 それから一拍おいて、クロガネの渾身の一撃は放たれた。


「——ショッッットォ!!」


 それは、世間一般のショットと比較することが馬鹿らしくなるほど、あまりに衝撃的だった。

 本来は発生することはない閃光が、まるで日中かと見紛うほどに煌々と夜を照らした。刹那、ソニックブームと共に衝撃波をまき散らしながら発射されたライトニング・ショットは、一直線に赤竜へと向かった。


 赤竜はすでに一度見た魔法だ。

 だが、それでも回避することは叶わなかった。


 クロガネと赤竜を結ぶ直線距離、およそ四キロメートル。

 その間をライトニング・ショットはわずか二秒とかけずに通り抜けた。

 推定速度マッハ六。

 そしてその速度はそのまま、威力に転じる。


 ——ギャァッ!!


 暗闇の中に、赤竜の悲痛な叫び声が響く。

 ライトニング・ショットは見事、赤竜の右翼を消し飛ばしていた。必然、赤竜の飛行能力はなくなり、地面へ向けて落下していく。


 これだけでも戦果としては上々だ。

 だが、クロガネは止まらない。止まる気はない。


「——ふぅ……!」クロガネ、この土壇場で魔力操作のコツを掴む。


 言い換えれば、高威力魔法の反動を相殺することが可能となったのだ。

 過去最高威力のライトニング・ショットながらも、クロガネはその場に留まり続けられている。


「ふ……ッ、ん!」


 そしてそれは、高威力魔法の連射が可能となったということでもあった。

 クロガネ。ダメ押しのショット二連撃。


「アイシクル——ショットォ!」


 二度目の閃光と、衝撃。

 その一撃は、落下中で避けようのない赤竜へと吸い込まれるように向かう。


 さも当然の如く、直撃。

 赤竜の左翼に到達したアイシクル・ショットは直後に破裂し、翼を粉微塵に粉砕した。


 クロガネは感情の赴くままに、赤竜を中指で指さして叫んだ。


「——ッ! 見たか!! コンチクショウ!!」


 遅れて到達した爆発音と衝撃波は、クロガネの言葉を代弁するかのように響き渡った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ