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星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
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1-01 風の流れるままに

 

 ヤタガラスと別れを告げた日から、すでに一ヶ月が経過していた。

 未だに、他の人類に出会えてはいない。

 これを順調かどうかで判断するのであれば間違いなく順調ではないと言えるだろう。


 “あの空間”の外側をこれまで一度も確認していなかったクロガネにとって最も予想外だったのは、あの場所がとにかく深い森の真ん中に位置していたという点だった。


 つまり端的に言えば、この一ヶ月間のほとんどは森の中を遭難していたということである。


 だが、それが全て悪いことだらけというわけでもない。

 ヤタガラスからもらった知識は、その全てが戦闘に関連するものというわけでもなく、例えば一般常識や便利な知識といったものも含まれる。

 その中には食べられる野草や動物の捌き方などもあった。


 そんなもの必要なのだろうか……と、一ヶ月前のクロガネは思っていたのだが、この知識がなければ一ヶ月後、すなわち今のクロガネは存在していなかったかもしれない。

 ある意味、早々にサバイバルの経験を積めたのは決してマイナスではないだろう。


 身体にはお守り程度の防具。

 腰には剣がひと振り。

 背中には小ぶりな背嚢。

 ヤタガラスが用意してくれていたそれらを身にまとい。


  ──さて。


 そんな一ヶ月間を経て、遂にクロガネは森の外に到達した。






「おおおおおお……」


 前に進む度に周囲の木々がまばらになっていく。ここは既に森の外縁部なのだろうという想像はしていたとはいえ、実際に視界が開けるとこれまた想像を超えてくるものだ。


 森を抜けた先に広がっていたのは、とにかく遙か遠くまで見渡すことが出来る平原だった。

 大地の起伏は激しくなく、一見しただけでは本当に平らに思える。


 特筆すべき点があるとすれば、遥か先に巨大な岩石があるということぐらいだろうか。

 クロガネのいる場所からでも目視できるほどの大きさであるが、少なくとも距離は数十キロ離れているため、実際に近づいてみれば途轍もない大きさであろうことは想像に難くない。


 そうして周囲を見渡していると、明らかに人が通っているであろう街道を発見する。

 恐らくは馬車の轍だろうか。そしてその道の両側には簡易的ではあるが柵が立てられている。


 クロガネは森から離れ、その街道に沿って歩き出す。




 その直後だった。


「……わぁ」


 森からおよそ一キロも歩かないうちに、巨大な大地の亀裂がクロガネの行く手を阻んだ。

 水平距離でも十数メートル開いたその亀裂は、垂直方向に関しては太陽の光も届かないほど深いことしか分からない。

 試しにそこそこ重量のあった岩を落としたが、岩が底に衝突する音はついに聞こえることはなかった。


 左右を見る。

 亀裂は右にも左にも続いており、終わりが見えない。橋も見当たらず、対岸に渡るすべは無いと考えていいだろう。


 更にいえば街がどちらの方向にあるのかすら分からないクロガネにとっては、右に行くか、左に行くか、どちらかを決める根拠も見つけることが出来ない。

 岐路に立たされる、と言うことわざがあるが、こうもあからさまな岐路に本当に立たされてしまったのは初めてだ。


 思わず頭を抱えた。

 見渡す限りの平原でありながら、人の姿どころか生物の姿をそもそも捉えられない。

 都合よく人が来ないかな、とその場に座り込んだが、三十分が一時間にも二時間にも感じられる。


 久々の『孤独』だ。


 クロガネは深く、それは深く溜息を吐き、「ちきしょー!」と叫んだ。


「こうなりゃ運だな! よし! 悩むのはやめ!!」


 そうして勢いよく立ち上がったクロガネの脳裏に、ひとつの方法が浮かび上がる。


 風。風が、吹いている。


 クロガネはぺろっと人差し指を舐め、天に突き上げる。

 などと、そんなことをせずとも風の流れぐらいすぐにわかるのだが、それでもわざとらしくそうしたのはクロガネの寂しさの表れなのだろう。


「……よし」


 風上は右。


 太陽の動きを見るに、右は太陽の昇る方角。すなわち『東』だ。

 クロガネは一切の迷いなく、東へ向かって歩き始めた。


 いや、迷いなく、というのには語弊があるだろうか。

 実際は迷いしかない。だが、迷っている現状ではどちらに行こうとも正解であり不正解。

 その答えが出るのが未来なのであれば、自分の選択を信じる他ないのだ。


 風の流れるままに、クロガネは歩き始めた。

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