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第19話 近頃の古いモンは

『「みん●で翻訳」! DL●iteは、日本(にっぽん)のマンガを世界に届ける、新サービスを開始します! クリエイターさんと、好きな作品を翻訳して、応援したい翻訳者さんを、マッチングしヘェ! 翻訳作品を気軽に作成できるサービス。それが、「みん●で翻訳」です!』

 新月を頂いて謹慎三日目の夜は更け行く。

『(ポッ 翻訳した作品が売れると・・・クリエイターさんにも翻訳者さんにも、収益が発生します! 収益をクリエイターさんに還元する、ボランティア翻訳者さんとして活躍することもできます! 一つの作品につき、先着三〇名まで翻訳できます。購入したユーザーさんからの評価によって、並び順などが変わりますので、より丁寧に翻訳された作品が、上位に並びます!』

 あー……直覚的にはもっとずっと長い。言いたいことや言えばよかったことが脳裡を巡るせいで広告が終わらないのだ。時が停まっているから眠ることも出来ない。地球は回る。(ツキ)もまた回る。ふん、妄っぱちだ。何が大安吉日だ、ばーか。

『翻訳者さんは、ブラウザーから簡単に、吹き出しの加工や文字入力ができます! 専用ソフトを入れる必要はありません! 直観的に翻訳できます! 対応言語は、英語、中国語、韓国語。対象商品は、DL●iteで販売中の、数十万の作品から、翻訳許可が出た作品が、随時追加されていきます! マンガ作品を世界に届ける! 「みん●で翻訳」!』

 今までに較べれば聞けるものなだけ(まし)な広告、と思うなら全身拘束されてこの広告だけ終日見せられる部屋に入ってみればいい。するうち私の気持ちが分かるだろう。スキップ。ふっと身体の強張りが抜ける。瞬く間に、

『「みん●で翻訳」! DL●iteは、日本のマンガを世界に届ける、新サービスを開始します!』

 ああもう、(きり)がない。

 女子(をみな)許嫁(きょかして)(えいすれば)非有(たいこあるに)大故(あらざれば)不入其門(そのもんにいらず)。ゴーシュ先生は知ってか知らずかその禁を犯した。学舎の人気のない一角、代筆で(したた)めた艶書、拙くたどたどしいながらも白地な言葉。壁の耳が彼の恋慕(リーベ)の発音を聞き取ったばかりか、即座に踏み入って私の袂の艶書を取る暴挙に出たから話がすっかり大きくなってしまった。悪いことに私の評は前世より遥かに低い。廿年後ならいざ知らず、現時点で看護とはご令嬢の火遊びでしかないのに、それすら元来建前だったのは暗黙の諒解である。男心と秋の空とて女は同音(くちぐち)に男を()みして己ばかりを操の堅きように言えど、外つ国の諺に女心と冬日和と言うなれば、女にも気紛れはありと知れて、男女を論ぜず。文書を偽造してまで女子が、而も未婚の婦女が外を出歩く理由など一つしかない。

『購入したユーザーさんからの評価によって、並び順などが変わりますので、より丁寧に翻訳された作品が、上位に並びます!』

 スキップ。即座に広告再開。じっと耐える。針の筵でも座り続けなくてはならない。タイ以外の男を獲るには、タイの許嫁としてこの学院の学生でいなくてはならないのだ。ゴーシュ先生はちょっと、()()かなーってだけで。

『専用ソフトを入れる必要はありません!』

 スキップ! うるさいなあ!

「五月蠅いなあっ」

 あっ。声、出しちゃった。伝えてしまったから時間は動き出す。誰かが有明行燈を提げてくる。火を吹き消して障子の裏に引っ込んだ。ばくばくと跳ねる心臓を抱き締めるうちに静寂が戻る。どこかの家の寝言と片付いたか。川に落ちたようになった。何も考えられなくなって気を失うように眠った。

 翌朝、先生がこの学院を去ることが全員に通知された。私は前世と同じくお咎めなしであったが、それは外聞を気にしたものだろう。晩になって訪れた侵入者が切々とした提琴を鳴らす。整った眉が闇夜を背に謹慎明けの私を貫いた。御免なさい。私は貴方に釣り合いませぬ。我が言ながら納得した、理由は分からないままだ。侵入者は捕り物にかかる前に垣を越えていった。行方は誰も知らない。

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