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奇妙な隣人  作者: 鷺岡 拳太郎
第2章
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第7話

 

 私は居間の入口に立ち、カメラをどこに設置するかを考えました。

 部屋に侵入した誰かが私の机の上で何かしらの作業をしていた可能性が高いのであれば、机の上は映るようにする必要があります。ですが、その誰かはこの部屋で次に何をするのかは予想もつきません。それもあったので、部屋全体をなるべく視野に収められる位置がいいだろうと思いました。

 そしてもう一つ、私はそのカメラをできるだけ外から目立ちにくい場所、そのカメラの存在そのものに気づかれないような場所に設置したいと考えました。部屋に入ってきた誰かに、私がその姿をカメラで記録しているということに気付かれたくはありませんでした。もし気付かれてしまうとその誰かを変に刺激してしまい、その結果、何か良くない結果をもたらしてしまうことを恐れたのです。

 ぐるぐる部屋の中に視線を巡らせている私の目に、部屋の隅に設置している白いエアコンが目に止まりました。エアコンの上と天井との間に小さな隙間があります。そこにカメラを設置すれば部屋の全体をカメラの視野に収められるし、それにエアコンの影に隠れてカメラの存在が目立ちにくいだろうと思ったのです。

 私はさっそく、買ってきたカメラを家電量販店の紙袋から取り出し、箱を開封しました。カメラは高さ五十センチくらいのサイズで、試しにエアコンの上に置いてみると、まるでその隙間に合わせて作られたかのようにすっぽりとそのスペースに収まりました。取扱説明書を見ながらカメラのセッティングを行い、電源に関しては、エアコンで使っている電源コンセントが一つ使われずに余っていたので、そこからとることにしました。

 セッティングも終わり、私はカメラをエアコンの上に設置しました。

 そして部屋の入口に立ち、カメラの様子を見ました。

 確かにエアコンの上に目を凝らすとそこにカメラが有ると分かります。ですが、カメラの存在を知らずに部屋に入ってきた者には、エアコンの影にちょうど隠れていてカメラに気付かれる心配はなさそうでした。次に私はスマホを手に取り、試しにそのカメラが撮影している映像をスマホ画面に映してみました。スマホ画面には、もともと狙いとしていた机の上はもちろん、部屋の中央に置かれたベッド、そして部屋の入口の隣に設けられていたクローゼットの扉までが映っていました。私はその映像を見て驚きました。ネットワークカメラと言えば解像度が低いという先入観がありましたし、それに五千円もしないような安いカメラでしたので、解像度もそれなりのものなのだろうと予想していました。ですが、私のその予想は見事に裏切られました。スマホ画面には、部屋の入口に立つ私の姿が、その顔がしっかりと識別できるくらいはっきりと映されていたのです。これなら、この部屋に侵入してきたものの顔をしっかりと記録に残すことができると思いました。

 次の日の朝、私はスマホにインストールしたネットワークカメラ用のアプリから、「SDカード録画スイッチ」をオンにし、「モーション検知アラームスイッチ」をオンにして家を出ました。これで私の部屋の様子を、カメラにセットしたSDカード内に録画できるし、また、カメラに内蔵されているセンサーが部屋の中に動体を検知した場合、通知が私のスマホに飛んでくることになります。

 大学に向かう電車の中、そして大学での講義中、私はずっとスマホが気になって仕方ありませんでした。いつ、部屋に設置したカメラが「動体検知」の通知をスマホに送ってくるか分からないのです。今まで通知が来ていないとしても、次の瞬間に見知らぬ誰かが私の部屋に侵入して、カメラがその動きを検知するかもしれないのです。私はスマホの通知を見落としてはいやしないかと、大学の講義中に何度もジーンズのポケットからスマホを取り出してその画面を確認しました。スマホはカメラから何の通知も受け取ってはいませんでした。

 本当に部屋の中を録画できているのだろうか。

 気になって、自分の部屋の様子をリアルタイムでスマホ画面に映して見たりもしたのですが、電灯が消され、誰の姿もない薄暗い私の部屋が映っているだけでした。

 大学の講義は十六時に終わりました。

 結局その日はカメラから動体検知の通知が来ることはありませんでした。私はどこか拍子抜けしたような思いを抱きながら、自分の家に帰りました。

 そして、次の日がやってきました。

 五月十七日、金曜日。つまり、今日のことです。



挿絵(By みてみん)


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