第三話「光の勇者を支える者たち」
ユイはなんとも言えない気持ちでコロシアムを後にした。
既に人だかりは無くなっているが、ユイを待っていたのか石柱に寄り掛かる女の子が切れ長の瞳でユイを横目で見、ゆっくりとユイの方に体を向き直すと片膝を付いた。
金髪の綺麗な髪を一つに纏めており、色白な肌と透き通った青い瞳が特徴的な女性だ。
「お初にお目にかかります。私の名はルーエと申します。飛び級にてアースティア国立魔導学院を首席で卒業し現在は魔導資格、僧職者資格を併せ持つ者にのみ許される上級職【賢者】に就いております。齢17歳。この度勇者様御出陣に伴い、勇者様の身辺警護や旅先での諸問題の解決、及び魔物討伐における戦闘要員、戦略・戦術的知識の進言、各地域に於ける風習や習慣等知識の共有及びその対策等を行う為、御同行の許可を頂きたく馳せ参じました。」
聞き取りやすくハッキリとした声だが、ユイはどこか冷たささえ感じた。そして何より言っていることが難しいとユイは混乱している。
返事が無いことにやや不安を募らせたのかルーエは「勇者様…?いかがなされましたか?」とやはりハッキリとした物言いで伺う。
「あ…、えっと、ごめんね。ルーエさん?凄く情報量が多くて途中から良く分からなかったんだけど、えっと、仲間になってくれるってことでいいのかな?」
「いいえ、仲間ではございません。従者としてお付きさせていただきたく…。」
「ちょっと待って。」
「なんでございましょう?」
「一緒に戦ってくれるなら仲間と呼ばせてほしいな。」
「はぁ…勇者様がそう望むのであれば。」
「良かった!年が近い人と冒険が出来るなんて思ってなかったからさ。うん、嬉しい。出来れば敬語とかはあんまり使ってほしくないな。」
昨晩ユイの元を訪れた従者達の質問攻めがあったため、一緒に冒険するならば女性が良いとは言ったもののあの王ならば筋骨隆々で屈強この上なくて、むさ苦しく性別すらギリギリ怪しい女戦士とかを連れてくるのではと気が気ではなかったため、ユイは本当に嬉しそうだ。
ユイはルーエに手を差し出した。
「ユイ。スメラギ ユイです。仲良くしてね、ルーエちゃん。」
「ちゃん…ですか。承りました、ユイ【ちゃん】。ルーエ・フォンデンベルグです。」
どこか機械的な【ちゃん】付けに少し苦笑するユイだったが、ユイの手を取り起き上がるルーエは口元だけ微笑むと直ぐに歩き始めた。
「では、参りましょうか、ユイ【ちゃん】。外で馬車ともう2人従者…ではなく、仲間が待っています。飲み水や食料等は既に馬車に用意されているので、その他気になるような物があれば購入してください。」
「うん、通り道とか詳しく無いからさ。道案内は助かるよ。」
ルーエは振り返り、コクリと頷くと直ぐ様歩み始めた。
「ユイ【ちゃん】の歩幅で計算するとおよそ1000歩ほどで城門、目的地に到着します。」
どこかカーナビの様なその物言いにユイは少し微笑むとルーエの後について行った。
「ルーエちゃんは普段はどんな遊びとかしてるの?」
「遊び…ですか?普段は魔道書、兵法書などを読み耽っております。」
「それ遊びじゃないでしょー?それじゃ、ルーエちゃんオススメの食べ物はー?」
「…そうですね。甘いものは好きです。疲れた時に良く食べます。」
「へぇ、どんなスイーツ食べるの?」
「砂糖をいただいております。」
「えっ?」
「?」
ユイとルーエはお互い歩みを止めてそれぞれに質問と解答に不備が無かったのか考え始めた。
「ルーエちゃん、ケーキとかは好き?」
「見たことはありますが、口にしたことはありません。」
「他に甘いもので好きな物はある?」
「ハチミツも舐めます。」
「えっ?」
「?」
「じゃあさ、じゃあさ!ご飯で好きな物は?これ食卓に出てきたらテンション上がるー!みたいな食べ物!」
「…特にありません。サンドイッチ等の一定の栄養バランスを摂取出来る物は好ましいですが、別にパンと水と塩、砂糖があれば困ることは特に…。」
「そ…そっかぁ…。」
「…申し訳ありません。ユイ【ちゃん】の同世代が遊ぶようなことや外食の話や、友人とアクセサリーを購入するといったことをしたことがないものでユイ【ちゃん】にとってはつまらない会話しか出来そうもございません。」
ルーエは少し申し訳無さそうにユイの方を振り向いた。
「友人というものもおりませぬ故…こういった会話もまるで慣れておらず…駄目ですね、私は。」
少し落ち込むルーエの前に立ち止まりニッコリと微笑むユイは、楽しそうに笑った。
「じゃあ、冒険しながら色々楽しもうね。ランチ食べたりアクセ買ったり、一緒に戦ったり、一緒に笑ったり。仲間なんだから、友達みたいなもんだよ♪」
「友達…」
「そっ♪友達♪」
ルーエは頬を赤らめ俯き、口元に手を当てながら目を反らして小さく頷いた。友達、と噛みしめるように呟いて嬉しそうにもう一度頷いた。
ユイは少し百合属性がなんたるかを分かった気がした!
「…国から勇者様の護衛職を任命された時はアルテ教信者として非常に名誉な大役を仰せつかったことを神に感謝致しました。でも、今はそれ以上に嬉しくて仕方がありません。不束者ではありますが、よろしくお願いします、ユイ、ちゃん。」
「うんっ、よろしくね、ルーエちゃん♪」
ユイはルーエの腕に抱き着くと微笑む。
「行こっか♪」
「はいっ!」
途中ユイとルーエはアクセサリーショップに立ち寄り買い物を済ませる。少し歩くとすぐに城門が見えてきた。
城の外ではこちらに向けて手を振る者がいる。
ユイとルーエは走り出した。
「おっせーぞ、賢者ー。」
健康的に日焼けした肌、筋肉質な腕、髪同様に赤いノースリーブのシャツは胸の谷間を強調するように開けており、左胸には黒い胸当てを当てている。赤いレギンスの上に黒い腰当てを装備し、同じく黒いグリーブを履いている出で立ちで、深紅でボサボサのショートヘアの女性がルーエに対してぶっきらぼうに言い放った。
今までユイに微笑んでいたルーエだが、その表情は一瞬にして出会った頃のような冷たい表情に戻る。
「黙りなさい。ユイちゃ…勇者様の御前ですよ。」
「お、そうだったそうでしたー。」
カラカラと笑い深紅の髪の女は片膝を付く。後ろにいるもう一人の水色の髪をした女性も同様片膝を付く。深紅の髪の女は「んじゃ、オレから行くわー。」と少し気だるそうに言う。
「えーと、初めましてぇ。昨日の【勇者討伐なんとか会】AだかBブロックで優勝しましたー。オレの名前アイシャ・レッドフィールド。武者修行の放浪中たまたまこの国に寄りかかったらおもしれーことやってたんもんだから参加したら優勝しましたー。【戦士】と【剣士】の上級職【バトルライナー】やってまーす。あとなんだっけ…年?あー、えーと、オレ何歳だっけ…あぁ、21歳でーす?よろしくお願いしまーす。」
「私討伐の大会?」とユイが笑顔で問いかけると、アイシャはしばらく不思議そうにユイを見つめていたが自分の発言に語弊があったことに気付き、「ごめん、違っ。勇者は倒さねえわ」と白い歯を見せて快活に笑った。
「わりぃね、参加する大会の名前なんかほとんど覚えたことねぇからさ。」
「そっか、とりあえずよろしくね、アイシャちゃん」
「ちゃんは止めてくれ。アイシャでいいよ、勇者ちゃん。」
「じゃあ私もユイでいいよ。よろしくね、アイシャ。」
「おう、堅苦しいのは苦手なんで助かるぜ、ユイ。」
ユイとアイシャが可笑しそうに笑っているとアイシャの後方で同じく片膝を付いた女が咳払いを1つ。
背丈はユイと同じ位で白銀のローブを纏っている女の子がやや緊張したように自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります。【勇者護衛及び対魔王討伐メンバー募集武闘大会】Bブロックにて優勝を勝ち得ました。名をエリス・マグニティアと申します。年齢は16歳です。上級複合職【ウェポンサマナー】に就いております。よろしくお願いします。」
ゲームの世界でも聞いたことがない職業にユイは首を傾げる。
「うん、よろしくね、エリスちゃん。ところでウェポンサマナーってどういう職業なの?」
「はい。【魔法錬成士】と【戦士】、【鑑定士】【中級召喚師乙種】を修了すると得られる職業です。様々な武器防具を魔法で生成し様々な局面に対応出来る職業です。剣、槍、投擲剣、大剣、盾、ローブの技術習得を済ませており、その錬成が可能です。」
「なんか凄いってことは分かった!エリスちゃん色んな職業をマスターしてるんだねぇ!」
「光栄の至り。……それより、勇者様にお願いがございます。」
「ユイ、でいいよ。それで、いきなりどうしたの?」
少しの間を空けてエリスはユイを懇願するように見つめて続けた。
「私の名にあるマグニティアは50年前まで今のアースティア領内南東部にあった亡国の名前です。」
「うん?」
「50年前の召喚節に於いて、我が祖国は勇者召喚に失敗し国力を失い、魔王軍の攻撃により崩壊後、今のアースティアに吸収される形と成りました。我が一族の悲願はただ1つ。国の独立でございます。魔王討伐の暁には何卒マグニティア独立自治国建国にお力添えを賜りたく存じます。」
神妙な面持ちで語り出したエリスに、状況が飲み込めていないユイ。
ユイがルーエの方を見やると、ルーエは優しく頷いた。
「私が勝手に決めていいものなのかは良く分からないけれど…ギルバルド国王にお願いしてみるよ。それでいいかな?それと、“勇者様”禁止でお願い。」
「…ありがとうございます!ユイ!」
肩の荷が下りてその場で崩れそうになるエリスの前にルーエは歩み、エリスの肩に手を置いた。
「エリス。世界を救ったユイちゃんの発言力は絶大です。ユイちゃんのお力添えがあればマグニティア復興は夢ではありません。一族の悲願、貴女が叶えなさい。」
「ありがとう、ルーエ……。」
エリスはルーエのその手を強く握り絞めた。
「よーし!そうと決まれば魔王をぶっ飛ばすとすっか!」
腰に履いた剣を抜きアイシャが天に掲げる。
「オレは世界最強を目指す。全ての剣士の頂点に君臨してみせる!オレが作った究極の剣士にのみ与えられる究極職業【剣極】の始祖として名を残す!」
アイシャは「恥ずかしいから早く続けよ」と短く微笑みユイを見る。
ユイも剣を抜き、アイシャの剣同様に掲げた。
「私はみんなと一緒に魔王を倒して世界に平和を取り戻します!」
ゆっくりと起き上がりエリスは小さく詠唱を始めた、すぐさま剣が現れエリスはそれを天に掲げた。
「世界に平和を取り戻し、マグニティアの復興と繁栄のために!」
ルーエも腰に差した杖を掲げる。
「と、友達のために…。」
「スケール小せぇなおい…」
「な、何よ…」
「ほらほら、ケンカしないの。あ、そうだ。良いもの買ったんだ♪」
ユイは袋から先程ショップで買ったアクセサリーを取り出した。
クローバーの葉の形をした銀の縁取りの内側にそれぞれ赤、青、黄、白のガラス細工がはめられている4つのネックレス。
赤をアイシャに、青をエリスに、白をルーエに手渡し、ユイ自身は黄色のネックレスを取り付け始めながら言う。
「私の世界ではね、四つ葉のクローバーは幸運の象徴なんだ。【希望】【愛情】【信仰】【幸運】ってそれぞれの葉に意味があるんだよね。アイシャには高みを目指す【希望】を、エリスには一族への【愛情】を、ルーエは僧職者だから【信仰】を、そんなみんなに出会えた私には【幸運】を。ちょっと恥ずかしいけど、今はうん!そんな気持ち!」
アイシャは受け取るとへへっと笑い、エリスはネックレスを握りしめ、ルーエは顔を隠しながら体をくねらせて身悶えしている。
それぞれがネックレスを身に付けながら、ふとアイシャはただ思ったことを口にした。
「でさ、その四つ葉のクローバーってのにはあんのか?」
「え?何が??」
「いや、オレはよく知らねぇんだけど、花言葉?」
「確かあったと思うよ?」
「ユイちゃん、教えてください。」
「私も気になります、ユイ。」
「えぇと、確か…」
「【私 の も の に な っ て く だ さ い 。】」
間違ったクローバーの知識をひけらかした上、しばらくの間アイシャに「百合ユイ」と呼ばれるユイ。
案外そういうのも悪くないと感じているルーエ。
どうせなら自分から攻めてやろうかとヘラヘラ笑うアイシャ。
そういう話は自分のいないときにでもやってほしいと思うエリス。
光の勇者一行の旅が始まる。
一行はカイゼリスの東に位置する町ドミナトへ向かう。
馬車に乗り王都カイゼリスを後にした。
なまえ:ルーエ
しょくぎょう:けんじゃ
せいべつ:おんな
レベル:53
あたま:知識のリボン
からだ:祝福のローブ
ぶき:悠久の杖
うで:生命の腕輪
あし:聖職者の靴
アクセサリー:魔力の指輪
アクセサリー:魔力の指輪
アクセサリー:クローバーのネックレス(白)
なまえ:アイシャ
しょくぎょう:ばとるろーど
せいべつ:おんな
レベル:53
あたま:なし
からだ:黒鉄の胸当て
ぶき:鋼剣~極~
うで:黒鉄の小手
あし:黒鉄のグリーブ
アクセサリー:クローバーのネックレス(赤)
アクセサリー:
アクセサリー:
なまえ:エリス
しょくぎょう:うぇぽんさまなー
せいべつ:おんな
レベル:47
あたま:錬金術士の髪止め
からだ:錬成ローブ(レベル47)
ぶき:なし
うで:なし
あし:革の靴
アクセサリー:力のアンクレット
アクセサリー:魔力のアンクレット
アクセサリー:クローバーのネックレス(青)
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