59 報告書
それから数日後、FPLのラボは地獄絵図と化していた。
「終わらない……やってもやっても報告書が終わらない……」
逢坂のデスクには、まとめきれていない報告書のファイルや、他部署から送られてきた資料の山で埋め尽くされていた。パソコンの周りには、栄養ドリンクの空きビンが散乱し、仕事の合間に食べようと思って買ったけどそんな合間なんてなくて食べられずにいる未開封のプロテインバーも、忘れ去られたように転がっている。
「作成済みの報告書が1枚……2枚……あと4枚足りないぃい……」
「嘆いてないで手動かして、荒木ちゃん。あなたの残りのノルマは6件。せつなちゃんなんて全面的に巻き込まれまくってるから、報告書がまだ14件残ってる」
「え? ノルマが14件じゃなくて、残ってるのが14件ですか? 一昨日から徹夜で報告書作ってるのに?」
「やめて。ナチュラルに現実突き付けるのやめて」
「報告書だけじゃなくて議事録の作成も残ってる」
「やめてぇええ……!」
志田からのトドメを食らった逢坂が絶叫したとき、久我が室長室から出てきた。そして、筒状に丸めた資料の束で肩をトントンと叩きながら、
「志田さーん、始末書まだですかー? 上から催促来ちゃってるんですけどー?」
と、機械的に笑った。もちろん目は笑っていないし、丸めた資料は金棒のように見える。
「あと10分待ってぇえ……」
「待ちますから喋ってないで手ぇ動かしてください」
言いながら、久我は自分のデスクに腰掛けた。平研究員たちは連日の残業地獄でもれなく極限状態だというのに、久我室長補佐は平然とした顔をしている。なぜだ。
「久我、アンタ随分余裕ね? 報告書、私より受け持ち多いでしょ?」
「ご生憎様、要領が良いもんで」
「腹立つ~……」
実際その通りだから、具体的に言い返せないのが余計に腹立たしい。
「志田さん、5分以内にできなかったら、一緒に謝りに行ってあげませんよ?」
「神様仏様久我様! お願いだから待って!」
「俺の確認作業もあるんで、マジで時間厳守でお願いします」
「分かった! 分かったから一緒に付いて来て!」
「夜中に一人でトイレに行けない子どもみたい」
と、美樹がクスッと笑うと、
「まぁ、相手が佐伯二等空佐だからね」
そう言いながら、安藤が穏やかに笑った。美樹も安藤も笑ってはいるが、どこか遠くを見るような目をしている。美容にうるさいはずの美樹の目の下にはクマができているし、仕事の合間に妻子の写真を見るのが日課の安藤もそんな余裕はないようだ。
「え? 総司令室ドア破壊事件の始末書なんですよね? なんで佐伯二等空佐に謝罪に行くんですか?」
「その場にいた佐伯二等空佐が、総司令部との仲介役になってくれることになったのよ」
荒木が尋ねると、志田はダカダカとキーボードを打ち付けながら答えた。
先日の総司令室であったことは、逢坂も久我からおおむね聞いた。しかし、総司令としては、あの一連の会話を、内輪だけに留めておきたいようだ。
「善後編」より最終章突入です




