56 友
ミッシュが装填する。ニーナが振り返る。だけど、光線もシールドも間に合わない。
アドマが穂浪の背中に向けて、光線を放つ。逢坂は穂浪の腕を掴んで、引っ張った。穂浪の体が、逢坂の体にぶつかるように倒れる。よろけた逢坂を、後ろから久我が支える。久我の両腕が、逢坂と穂浪をいっぺんに抱え込む。
ドーンッ!!
地響きとともに、大きな衝突音が鳴り響いた。
いつの間にかきつく閉じていた目を開くと、そこには包帯でぐるぐる巻きにされた穂浪の肩があった。消毒液の匂いに交じって、血の匂いがする。
「う゛ぅ……」
苦しそうな穂浪の呻き声に、逢坂は青ざめた。
「穂浪さん! 大丈夫ですか!?」
「む、むねが、いたい……」
「胸? 胸が痛いんですか?」
「う、うん……」
一先ず傷を診ようと、逢坂に寄りかかる穂波の体を引き剥がし、地面に寝かせた。そして、シャツを捲って胸元を開いたとき、驚いた。
「……え?」
痛いと言っていた穂浪の胸には、それらしき外傷がない。しかし、胸が痛いと感じるだけで、実は他のところに傷があるという場合だってある。逢坂は穂浪の体を念入りに見回した。
「穂浪さん、本当に胸が痛いんですか?」
体のどこを見ても外傷が見当たらず、逢坂が尋ねると、
「うん。ドキドキで胸が痛い」
と言いながら、穂浪は恥ずかしそうに両手で顔を隠した。指の隙間から見える頬は紅潮している。
「……は?」
「逢坂さんが俺を庇ってくれたことにときめいちゃって……ヤダッ恥ずかしいッ!」
胸が痛いって、そういう意味……?
「この状況で紛らわしいこと言うのやめてくれません? ぶん殴りますよ?」
「逢坂さんの口から『ぶん殴る』なんて……やめて! ギャップで余計にドキドキしちゃいます!」
本当にぶん殴ってやろうかと振りかざした逢坂の拳を、久我が後ろから握りしめて止めた。
「逢坂、気持ちは分かるが落ち着け。気持ちは分かるが」
「落ち着いてるわよ。だから穂浪さんは殴られずに済んでる」
「そうかそうか。落ち着いてるなら、周りの状況もよく見ような?」
そう言うと、久我は逢坂の頭を両手で挟み、顔を上げさせた。その瞬間、逢坂は目を疑った。逢坂たち3人の周りが、小さなドームのようなシールドで囲まれていた。そして、そのシールドを作っているのは、ニーナではなかった。ラシェを始めとしたミッシュの親戚たちだった。
「そんなくだらない漫才ができるなら、3人とも無事のようだな」
両手でシールドを作ったまま、ラシェがこちらを振り返った。逢坂と目が合うと、ふっと優しく微笑んだ。
「お前がオウサカサンだな?」
「どうして守ってくれたの?」
「ただの罪滅ぼしだ。お前を誘拐したことと、私の勘違いで光線を撃ってしまったことへのな」
「でも、私たちは人間よ?」
逢坂の言葉に、ラシェはチラリと穂浪を見た。
「そこの馬鹿が、ミッシュを友と言った。ミッシュもそいつのことを友と言った。助ける理由なんて、それだけで十分だろう」
そう言うと、ラシェは両手を下ろした。それを合図に、他の親戚たちも両手を下ろす。すると、シールドは盾の形を崩し、小さなシャボン玉となって風に飛ばされていった。
「さて、私たちにできることはここまでだ。後のことは、あの方にお任せする」
と、ラシェは空を見上げた。
「『あの方』?」
逢坂が首を傾げたとき、空に何かキラリと光るものが見えた。一瞬で消えてしまったから見間違いかと思ったが、そうではないとすぐに分かった。
「ミッシュとニーナが時間稼ぎをしてくれている間に、お呼びしたんだ」
「誰を?」
キラリ、また空で何かが光った。そして、それはみるみるこちらに近付いてくる。
「我が故郷の長老様だ」
ラシェの紹介とともに、杖を突いた小さなポロムが地上に舞い降りた。




