55 野生の勘
ドーンッ!! という衝突音とともに、ものすごい爆風が吹き荒れた。先程のニーナとアドマの撃ち合いで崩れた床や壁の瓦礫が、宙に舞う。久我の制服の裾が、バタバタと音を立てて旗めく。あまりの強風に、身動きが取れない。ニーナがシールドで守ってくれていなかったら、逢坂たちは今頃、屋上から吹き飛ばされていただろう。
「逢坂さん……」
耳元で、穂浪の掠れた声が聞こえた。
「話しておきたいことがあるんです」
「今はじっとしててください」
「じっとしてるから、俺の話聞いてくれません?」
黙るように言ったところで、この人はどうせ言う事を聞かない。
「何ですか?」
「アドマと話しがしたいんです」
「ダメです」
穂浪の提案を棄却したのは、久我だった。
「アイツらの母親ならまだしも、アドマと対話して解決しようなんて甘すぎです。許可できません」
「このままじゃ、アドマかミッシュのどちらかが倒れるまで光線の撃ち合いをすることになります。そうなったら、周りの建物にも甚大な被害が出ます。近隣住民は避難していますが、自分の家がミッシュの光線で壊されたとなれば、みんなミッシュを責めます。命が助かって良かったという話には着地しません。人間ってそういう生き物だから」
「そんなこと俺だって分かってます」
「それに、ここから逃げてもアドマは追ってきます。俺たちが局内に逃げたら、他の局員まで危険に晒すことになります」
「それでも、アドマと話しをするなんて現実的じゃありません」
「あれ? 久我さん、やる前から諦めるんですか?」
へらっと笑いながら、どこかで聞いた台詞を投げかける穂浪に、久我がぐっと言葉を詰まらせた。
まさかあの久我が、穂浪さんに言い負かされる日が来るとは……と、逢坂は思った。
「俺、うまくやりますから」
「その自信は一体どこから……」
「ここまで見ていて気付いたんですけど、アドマはミッシュとニーナの攻撃を、必ず後ろに下がって避けていました。それって、心理的にアドマが『押されている』と感じてるからだと思うんです。そこを利用できないかと」
負傷中の身でありながら、そこまで戦況を見て、剰え分析していたことに、逢坂はちょっと驚いた。穂浪のことを少し見くびっていたかもしれない。
爆風が止んだ頃、穂浪はゆっくりと上体を起こした。逢坂は穂浪の頭を抱え込んでいた両腕を解き、背中を支えた。爆風は落ち着いたが、アドマとミッシュはまた光線の撃ち合いを始めていた。あんなすごい爆発があったのに、二人とも傷一つない。ニーナはシールドを構えながら、ミッシュを心配そうに見つめている。
「アドマ!」
澄み切った青空に、穂浪の声が響き渡る。
「話しをしよう」
穂浪は左肩を庇いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「君はどうしてミッシュを攻撃するの?」
穏やかな笑顔を浮かべながら、穂浪はアドマに問いかける。アドマは光線を撃つのをやめ、穂浪を見下ろした。
「危険 ハ 排除 スル」
アドマの声が聞こえた途端、逢坂と久我は激しい頭痛を感じた。穂浪も同じはずなのに、動じることなく会話を続ける。
「君はポロム連合の長の側近らしいけど、誰かから指示されたの?」
「言ウ 必要 ナイ」
「アドマは、ミッシュが危険だと思う?」
「思ウ」
「本当に?」
「当タリ前」
「アドマ、戦ってて分からないの?」
「何 ヲ」
「ミッシュは光線を撃って牽制するだけで、君に致命傷を負わせようとはしていない」
穂浪の言葉に、その場がシンと静まり返った。光線の光や音、爆風の規模が凄まじすぎて、そこまでミッシュの心理が見えていなかった。だけど、思い返してみれば、ミッシュが先行してアドマに攻撃をしたことはなかったし、アドマの光線を弾いたり、アドマが逢坂たちを狙おうとしたのを阻止したりする以外には光線を撃っていない。今だってそうだ。穂浪とアドマが話している間、狙う隙はいくらでもあるのに、ミッシュは攻撃を中断している。ミッシュの行動から、その真意が穂浪には見えていた。たぶんそれは、分析結果というには計算され過ぎている。「野生の勘」とか「審美眼」とかの方が、穂浪にはしっくりくる。
「敵である君でさえ傷付けたくないんだよ。そんな優しいミッシュが、危険なわけない」
「ウルサイ」
「今、君が無傷でいることが、その証拠だよ」
「黙レ」
「それに、君も本当は気付いてるんでしょ? ミッシュとニーナの方が君より強いって。それを最初から分かってたから、ずっと逃げ腰で戦ってた」
その言葉に、アドマは怒りのこもった瞳で穂浪を睨んだ。そして、姿を消した。
「コレダカラ 人間 ハ 嫌イ ダ」
アドマが瞬間移動をしたのは、穂浪の背後だった。




