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54 守ろうとしたもの


 穂浪の手当てをしている間も、ニーナとアドマは戦い続けていた。両者とも相手が撃った光線をことごとくかわし、その度に屋上に穴が開いていく。


 当初の予定では、穂浪をシールドで守るはずだったが、ニーナはアドマへの攻撃に固執していた。ミッシュに向けて光線を放ったアドマに対する怒りで、冷静さを欠いているようだ。このままでは周りの建物まで崩壊させかねないと、危惧した久我は、穂浪の肩に包帯を巻き終えたところで、ニーナを呼び付けた。


「おい! 目的を見失うな! 穂浪さんの救出が優先だ!」


 久我の声に、ニーナはこちらを振り返った。しかし、「お前の言う事なんか聞くもんか」とばかりにアッカンベー! と舌を出し、そのままアドマとの撃ち合いを再開してしまった。


「あんにゃろ……!」


「日頃の行いね」


「おい! あのじゃじゃ馬、お前の妹だろ! 何とかしろ!」


「そう言われましても……闘志に火が付いたニーナはワタクシでも止められません」


「やる前から諦めてんじゃねぇ。さっさと説得しろ」


「まったく……それが他人にものを頼む態度ですかねぇ」


 と、ぼやきながら、ミッシュは立ち上がった。


「お前は妹を加害者にしたいのか?」


 このまま光線による撃ち合いが続けば、ニーナの光線による被害が出てもおかしくない。全体統括だった頃の久我が、近隣住民を避難させてはいるだろうが、逢坂たちが立っているこの建物の中には何人もの局員がいる。もしニーナの光線により、局員が怪我をしたり建物が崩れたりすれば、総司令部はニーナを敵と見なし、それ相応の対処をするだろう。そうなっては、さすがの久我も庇いきれない。


 ミッシュは久我の言葉に返事こそしなかったが、何か思うことがあるようだった。アドマと睨み合いをしているニーナに駆け寄りながら、声をかけた。


「ニーナ! 手当てできましたよ! もうその辺にして退散しましょう!」


 まるで庭で遊んでいる子どもに、「夕飯の支度ができたから家に入りなさい」と言うようなミッシュの呼びかけに、ニーナは振り返った。そのときだった。屋上の柵に乗っていたアドマが、急に姿を消した。突然のことに、逢坂は何が起こったのか分からなかった。辺りを見回し、アドマを探す。そして、瞬間移動を使ったのだと理解できたのは、ミッシュの目の前にアドマが姿を現した後だった。


 駆け寄ったって、何もできない。むしろ邪魔になるだけだ。分かってはいたが、逢坂の体は勝手に動いていた。


「やめろ逢坂!」


 ミッシュに駆け寄ろうとする逢坂の手を、久我が掴んだ。グイッと引っ張られ、逢坂の体が後ろにつんのめる。


 アドマが口を開ける。ミッシュも口を開けた。二人とも光線を撃とうとしている。だけど、そんな至近距離で互いに光線をぶつけ合ったら、暴発してしまう。


「オウサカセツナ! サガッテ!」


 こちらに走って来たニーナが叫んだ。逢坂たちの前で急ブレーキをかけて止まると、アドマに向けて両手を広げた。すると、手の平から、勢いよく半透明のシャボン玉液のようなものが出てきた。それはあっという間に盾の形を帯びていき、見上げるほど大きな盾が出来上がったのは、ミッシュとアドマが光線を出す直前だった。


 ヒュンッ! と光の球が風を切る音が2つ聞こえた後、カメラのフラッシュのようなものが一瞬光った。これは、今までの光線の撃ち合いとは比べものにならない規模だ。直感的にそう思った逢坂は、無防備に地べたに転がっている穂浪を振り返った。目を閉じていて、意識があるか分からない。


 守らなくちゃ。考えるより前に、体が動いていた。久我の手を振り払い、穂浪さんに駆け寄る。災害時、人間が最も保護しなければならないのは頭部だ。冷静ではないはずなのに、頭の中はすっきりと冴えている自分が不思議だった。逢坂は穂浪の頭を膝に乗せて座った。そして、前屈みになって、穂浪の頭を両腕で抱え込む。瓦礫がれきが飛んできても、穂浪が怪我しないように。これ以上、痛い思いをさせないように。そのとき、背中を何かに覆われた。振り返ると、そこには久我がいた。


「黙ってろ」


 まだ何も言っていないのに、久我は逢坂を叱りつけ、逢坂の頭を自分の胸に押し付けた。久我の心臓の鼓動が、直接耳に届く。こんな状況なのに、その心拍数はムカつくくらい落ち着いている。覆い被さるように後ろから抱きしめる久我の体勢が、身を挺して守ろうとしてくれているみたいで。あの久我が自分相手にそんなことをするなんて、奇妙なこともあるもんだと、逢坂は呑気なことを考えた。そして、逢坂は穂浪の頭を抱えていた右腕を解き、右肩に埋まる久我の頭を、ぎゅっと右腕で抱えた。


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