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53 止血


 瞬間移動直後は、やはりひどい眩暈がした。視界がぐわんぐわんと揺れて、足元がふらつく。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。逢坂たちが到着したのは、穂浪とアドマのちょうど中間地点だった。すぐそこにアドマがいる。今にも光線を放とうとしている。


 ニーナが逢坂と久我の手をパッと離した。同時に、アドマが光線を放った。光の球が逢坂たちの方へ真っ直ぐに飛んでくる。


 ニーナはスウゥッと息を吸い込んだかと思うと、光線を吐き出した。ピュンッ! と鋭い音を立てて飛び出したそれは、アドマの光線に向かって飛んでいく。アドマの光線を打ち返すつもりなのだろう。しかし、ニーナの光線は、アドマのそれより一回り以上小さい。まともにぶつかれば押し負けてしまう。


 バンッ! という爆発音とともに、ニーナとアドマの光線がぶつかり合った。予想通り、アドマの光線に押し負けたニーナの光線は、燃え尽きるように消滅した。そして、アドマの光線は、真っ直ぐだったはずの軌道を変え、逢坂の頭上を通り過ぎていった。空の彼方に消えていったアドマの光線を見て、ニーナの狙いが初めからこれだったことに気付く。


 ニーナは間髪入れず、2発目の光線を発射した。ニーナの光線が、真っ直ぐにアドマに向かって走っていく。アドマは高く飛び上がって避けると、ニーナから距離を取るように後退した。アドマの足元をすり抜けたニーナの光線は、屋上の柵に衝突した。バキッ! という大きな音とともに、鉄製の柵が粉々になる。


 ニーナがアドマと交戦している間に、逢坂は穂浪に駆け寄った。うずくまるように倒れている穂浪は、ミッシュを守るように胸に抱いている。制服の左肩部分はスパンと真っ直ぐに裂けていて、焼け焦げた跡だけでなく、熱で生地が溶けている部分もある。そこを光線が通ったのだと一目瞭然だった。


「あぁもう! 止血できるって言ったくせに、やってないじゃないですか! 久我! 救急バッグ! 早く!」


 逢坂の切羽詰まった声に、穂浪はビクンッと反応し、顔を上げた。急かされた久我は「はいはい」と言いながら、肩に掛けていた救急バッグを逢坂の手元に下ろす。


「なんで……」


 むくりと起き上がりながら、穂浪は信じられないという顔で逢坂を見つめた。


「穂浪さんが一人で無茶するからです!」


 叱るように言いながら、逢坂は救急バッグからハサミを取り出した。穂浪の袖部分を裁ち、上着を剥ぎ取る。白いシャツには、赤黒い血がべっとりと付いていた。逢坂は、ごくり、と唾を呑み込んだ。


「よかった……」


 この状況に不釣り合いなことを、穂浪は呟いた。そして、ふへへ、と嬉しそうに笑うと、


「また逢坂さんに会えた……俺、生きてるんだ……」


 と、消え入りそうな声で言った。穂浪の体からふっと力が抜けたのは、そのときだった。重力に逆らえず、体は前に倒れていくのに、その両腕は弱々しくもミッシュを抱えたままだ。


「おっと」


 と、穂浪の体を支えたのは、久我だった。久我は穂浪の体を地面に寝かせると、左肩を上にして、うつ伏せ気味の横向きにした。回復体位というやつだ。


「穂浪サマ……」


 穂浪の体から力が抜けたことで、ミッシュは穂浪の両腕をこじ開けて脱出できた。心配そうに呼びかけ、顔を覗き込んでいる。


「穂浪さん、安心するのはまだ早いです。今から止血します。貧血で眠いかもしれませんが、起きててください。じゃないと死にますよ」


 縁起でもないことを淡々と言いながら、久我は穂浪のシャツのボタンを胸元まで外した。シャツを捲って左肩部分を露出させると、傷口が露わになった。不意に、テキパキと動いていた手が止まった。思っていたより傷が深い。背筋にひやりと冷たい汗が伝う。


「ガーゼ」


 と、ぶっきらぼうに言いながら、久我は催促するように手を出した。逢坂は慌てて救急バッグからガーゼを取り出し、久我に渡した。止血法なんて、いつどこで覚えたんだろう。久我の手元には、無駄な動きがない。半年前に応急処置の講習会に行っただけの逢坂なんかより、よっぽど頼もしい。


「穂浪さん、今、久我が止血してます。もう大丈夫ですからね」


 酸素ボンベを穂浪の口元に当てながら、逢坂は声をかけた。穂浪が安心できるように、穏やかに。


「逢坂さん……」


 苦しそうな呼吸の合間に、穂浪が名前を呼ぶ。


「はい?」


 うっすらと開いた瞼の間から、潤んだ瞳が逢坂を見上げる。他の女性局員だったら卒倒しそうな色っぽさだ。


「あの……て……ぎって、ほし……」


「え? 何て?」


 声が小さくて、よく聞こえない。逢坂は前屈みになって、穂浪の口元に耳を近付けた。すると、穂浪は首を伸ばすようにして、逢坂の耳元に唇を近付けた。


「……て……にぎって……ほしい……」


 肩以外にどこか痛いところがあるとか、アドマのことで何か伝えるべき情報があるとか、そういうことを言われると予想していた逢坂は、拍子抜けした。


「手、ですか?」


「はい……」


 穂浪の意識が朦朧としているのは、傷による痛みのせいもあるが、たぶん貧血で脳に酸素が回りきっていないからだ。手を握られることで外部からの刺激を受けることは、穂浪の意識を保たせる上で有効だろう。


「まぁ、いいですけど」


 と、穂浪の手を握ろうとしたときだった。まるで逢坂から横取りするように、久我が穂浪の手を握った。


「わぁ……逢坂さんの手、意外とたくましい……」


 穂浪はそう言って、にへら、と嬉しそうに頬を緩めた。


「あ、いや、ちが……」


「指先の感覚はちゃんとありますねーヨカッタヨカッター」


 棒読みで言いながら、久我は右手で止血しつつ、左手で穂浪の手をギュッギュッと力強く握った。


「い、痛い……逢坂さん、もうちょっと優しく……」


 結局、穂浪は、手当てが終わるまでずっと、久我の手を逢坂の手と勘違いしたまま握っていた。




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