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37 透明化


 総司令室を出た後も、穂浪には気になっていることがあった。ミッシュが、いつ、どうやってアタッシュケースから脱出したかだ。アタッシュケースは鍵こそ付いていないが、ミッシュを中に入れてから一度も開けていない。もしかしたら、ミッシュを中に入れるとき、目を離した隙に逃げていて、実はずっと中にいなかったのだろうか。だとしたら、ミッシュは今どこに……?


「久我さん、ミッシュの行き先に心当たりはあるんですか?」


 局を出て、臨海公園に向かって走りながら、穂浪は尋ねた。


「えぇ、まぁ」


 さすが久我さん。そんなことまで分かっちゃうなんて、やっぱりすごいなぁ。と感心しながら、穂浪はまた尋ねた。


「ミッシュはどこにいるんですか?」


「え?」


「え?」


 久我が驚いた顔でこっちを見るもんだから、穂浪も驚いた。


「ここにいるじゃないですか」


「え?」


「穂浪さん、まさか気付いてないんですか?」


 穂浪には、久我が何を言っているのか分からないことが、これまで何度もあった。しかし、それは久我が難しい言葉を使ったり、回りくどい言い方をしたりした場合だ。今回はそのどちらにも当てはまらないのに、久我が何を言っているのか分からない。


「ミッシュならいますよ。さっきから、ずっと」


「どこに?」


「ここに」


 と、久我が指差したのは、何の変哲もない久我の肩。


「もう出てきていいぞ。この辺りには誰もいない」


 久我がくうに向かって言った後、突然、久我の肩が歪んだように見えた。かと思うと、


「はぁ~……やはり長時間透明化するのは疲れますね……」


 と言いながら、久我の肩にしがみついているミッシュの姿が現れた。まるでずっとそこにいたかのように。


「てことで、任務完了です」


「えぇええっ!?」


 あっさりと言い放った久我に、穂浪は驚き絶叫した。


「おい、いつまで乗ってんだ。局を出たんだからもう降りろ」


「ワタクシの脚のリーチを考えてください。あなた方と同じ速度でなんて走れませんよ」


 言い合いをしている久我とミッシュを見つめながら、穂浪は混乱していた。唯一分かったのは、今の状況を理解できていないのが自分だけだということ。とりあえず言いたいことは……


「久我さん、体幹しっかりしてますね」


「最初に言うこと、それでいいんですか?」


「だって、ミッシュをおんぶしながら走ってるのに、全然軸がブレないじゃないですか! 尊敬します!」


「そりゃどうも」


「パイロットって体力勝負なところあるんで、ついそういうとこ見ちゃうんですよね。職業病っていうか」


「いつからミッシュが俺の背にいたかとか、訊かなくていいんですか?」


「あ、それも気になりました」


「真っ先に訊きましょうよ、それ」


「ワタクシはずっとおぶられていましたよ」


「『ずっと』って、いつから?」


「総司令室で、穂浪サマがアタッシュケースを開ける直前に透明化をしました。その後、隙を見て抜け出してからずっとです」


「透明化……?」


「穂浪さんの、逢坂以外には姿が見えなかったという証言から、地球外生命体には姿を消す能力があると推測できました。ただ、ミッシュにもその能力が備わっている確証はなかったし、仮にその能力を持っていたとして、コイツが俺たちを裏切ってその能力を行使しない可能性もありました。とはいえ、『ミッシュを連れ去った証拠がない』ことを手っ取り早く証明するには、あれしか思い付きませんでした。正直、大博打でしたよ」


「失礼ですね。ワタクシがあなた方を裏切るわけないじゃないですか」


「嘘を吐いてた奴が何を言う」


 と言いながら久我は、殊逢坂救出に関しては、ミッシュは信用できそうだと感じていた。総司令室で透明化したのは、久我と穂浪が拘束されるのを防ぐため、引いては逢坂の救出のためだ。また、逢坂のいる臨海公園に向かうということは、同時に、ミッシュを死刑にしようとしている地球外生命体のもとへ向かうことにもなる。それでもミッシュは久我と穂浪に付いてくる。逢坂救出に協力的であることの表れだ。


「ところで久我さん、せっかく特別離陸許可もらったのに、ブループロテクトは使わないんですか?」


 走りながらでも、穂浪はよく喋る。そこそこのスピードを出しているのに、息も切れずに普段通り喋っているから不思議だ。久我は呼吸を整えてから、「はい」と短く答えた。


 最初は久我も、ブループロテクトでの逢坂救出が最適解だと考えていた。人間が生身で地球外生命体と対峙したとして、光線を出されたらひとたまりもないからだ。しかし、ミッシュの脱走の手助けをしたと疑われている状況で、特別離陸許可によるブループロテクトの出動なんて異例の出来事を起こせば、目立つことこの上ない。


「今は目立ちたくないんです」


「総司令室のドアぶっ壊したのに?」


「そういう意味じゃなくて……幹部に目を付けられたくないってことです」


「総司令室のドアぶっ壊したのに?」


「俺が言ってるのは、牧下総司令のような善良な幹部じゃありません」


「どういう意味ですか?」


「とにかく、特別離陸許可は切り札として取っておきます。今は目立たないことを最優先し、臨海公園にはシンプルに走って行きます」


 これ以上喋っていたら、逢坂救出の前にバテてしまう。久我は無理やり会話を中断させた。


「あ、これだけは言わせてもらいますけど……ドアぶっ壊したのはあくまで安藤さんと志田さんです」


「久我さんって、結構根に持つタイプなんですね」




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