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36 おつかい


「よろしいのですか? 二人だけで行かせて」


 ドアが閉まるのを見届けてから、佐伯は牧下を振り返った。心配そうな佐伯を、牧下はクスッと笑う。


「あなたが総司令官だとしても、同じことをしたと思いますよ?」


「ご冗談を」


「私が失脚したら、次の総司令はあなたです」


 さも当然というような牧下に、佐伯は何も言い返せなかった。世界中の歴代総司令官の中で最も偉大な牧下総司令の後釜が自分なんて、そんな大役……想像しただけで胃が痛くなってくる。


「今回のことで、私が総司令官を罷免される可能性だってあります。幹部の中には私のやり方に異を唱える者もいますから」


「そこまでして、なぜ彼らに託したのです?」


 地球の未来。


 牧下は、真っ直ぐな瞳でそう言った久我の顔を思い出していた。平和な世界を目指すことなんて当たり前だ。だけど、平和な世界が当たり前に存在していることにしてはいけない。それを、あんなに真剣に語れる研究員がいるなんて知らなかった。


「彼、見かけによらず純粋な子でしたね」


「久我くんのことですか?」


「冷たいようで熱く、固いようで柔らかい。……私が何か言う度に、必死に頭を回転させていて……ふふ、ちょっと可愛かったですね」


「未来ある若者をいじめないでやってください」


「そんなつもりはありませんよ。全ては彼の本質を見抜くためにやったことです」


「でもちょっと楽しんでましたよね」


 佐伯からの指摘に、牧下は「ふふふ」と楽しそうに笑った。


「久我室長補佐の企み、とても興味があります。彼の見ているものと、私の見ているものは、同じように感じました」


「というと?」


「うかうかしていると足元を掬われるということです」


「はい?」


「さて、陽動は彼らに任せて、我々は根回しをしておきましょう。佐伯、ブループロテクトをいつでも離陸できるよう手配して。それから、久我・穂浪両名への特別任務について、毛利に伝達を。ただし、内密にね」


「御意」


「それからもう一つ。おつかいを頼みたいのですが」


「おつかい、ですか?」


 佐伯が尋ねると、牧下は悪戯を企む子どものような顔で笑った。


「佐伯、私はあなたを信じてる」


「何ですか? 藪から棒に」


「常日頃思っていることを言葉にしただけよ」


「そうやって俺をほだそうって魂胆なんでしょうけど、そんなことしなくても仰せのままに動きますよ」


「さすが佐伯。頼りになるわ」


「身に余る光栄です。して、おつかいとは?」


 胃がキリリと痛んだが、佐伯は気のせいということにした。




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