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17 進展


「なぁ、逢坂」


 夜勤制が導入されようと、正午に久我に食堂へ連行される罰則がなくなることはない。先に生姜焼き定食を食べ終えた久我が、ぼんやりと逢坂を呼んだ。


「なに?」


 口に入れようとしてお皿の上に落としてしまった付け合わせのブロッコリーを、もう一度箸で摘まみながら、逢坂もぼんやりと返事をした。


「お前はどう思う?」


「どう思うって、何を?」


「あの地球外生命体だよ」


 ミッシュが出現してから1週間が経つが、大きな変化はない。地球外生命体についての新情報が解明されることもなければ、ミッシュを追ってきた地球外生命体が地球を侵略してくることもない。たまに数体の地球外生命体が地球に観光に来るものの、それは朝9時から夜6時の時間帯だけだった。夜勤制まで導入して待ち構えているこちらからしてみれば、肩透かしをくらったような気分だ。何も起きないに越したことはないが、こうも何も起こらないと、かえって不気味なのだ。嵐の前の静けさ、とでも言おうか。


「CILからの報告はどうなってるの?」


「特に何も」


「あの地球外生命体、黙秘してるの?」


「いや、相変わらずよく喋るらしいが……」


「まともな質疑応答になってないの?」


「あぁ」


 逢坂はブロッコリーを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼しながら、ふと考えた。


「そもそも、ミッシュは何しに来たんだろうね」


 逢坂の何気ない言葉に、久我は「は?」と顔を上げた。


「だって、急に地球に現れて、『地球が大好きです!』とか『人間に興味があります!』みたいなこと言ってるけどさ、そもそも何しに来たわけ?」


「さぁ、それは……」


「CILはまずそれを聞き出さないといけないわよね」


「いや、さすがにその質問は一番初めにしてるだろ」


「だけど分かってないのよね? どうして?」


「それはアイツがベラベラ関係ないこと喋ってるから……」


「もしかして、聞かれたくない話だから関係ないこと喋ってはぐらかしてるのかな?」


 逢坂が言い終わった後、久我は返事をしなかった。その代わり、ガタンと立ち上がった。


「行くぞ」


 自分と逢坂のおぼんを両手に持ったかと思うと、久我は短く告げて、歩き出した。


「行くってどこに?」


 逢坂は久我の分まで椅子を元に戻してから、後を追う。久我はおぼんを返却口に置いて、「ごちそうさまでした」と厨房に挨拶してから、足早に食堂を出て行った。「行くぞ」と同行を強要したくせに、この男、逢坂を置いて行く勢いでツカツカ歩いていってしまう。


「ちょっと待ちなさいよ。行くぞってどこに行くの?」


「AMLだよ」


「何しに?」


「地球外生命体と話す」


「話すって何を?」


「さっき逢坂が言ったことだよ」


「は?」


 やっとの思いで隣に追いついた逢坂を、久我はチラッと見下ろした。「もたもたするな」とでも言いたげな視線に、カチンとくる。


「逢坂、穂浪さんの連絡先知ってるか?」


「知らない」


「チッ、んだよまだ進展してねぇのか」


「なんでアンタにそんなことで舌打ちされなきゃなんないのよ!」


「使えねぇな、ったく……」


 言い返す逢坂を無視してブツクサ言いながら、久我は胸ポケットからスマホを取り出した。そして、誰かに電話をかけ始めた。


「あ、どうも。久我です。穂浪さん、今、お時間ありますか?」


 連絡先知ってるなら、最初から自分でかけなさいよ。


 と思ったが、それを口に出してしまうと、電話の向こうにいる穂浪にも聞こえてしまう。逢坂は口パクで文句を言ってやった。久我は電話をしながら、その合間に「うるさい」と小声でたしなめた。しかし、声を出していない相手に「うるさい」という指摘は適切ではない。逢坂は懇親の「アンカンベー」をお見舞いして、ツンとそっぽを向いたまま久我とともにAMLへ向かった。




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