15 異邦人
今回のターゲットの特徴をまとめる。体長は120センチと小柄。性別は男。年齢は160歳。なお、地球外生命体に性別や年齢の概念があるということは、ターゲットの証言により初めて明らかとなった。
「はじめまして。ワタクシはミッシュと申します。地球のことが大好きです。どうぞお見知りおきを」
大きな特徴は、人間の言葉を理解し話せるということだ。喋る地球外生命体など前代未聞だ。しかも、穂浪より敬語を使いこなしている。
「ワタクシのような地球外生命体の中には、地球人に対して否定的な見解を持つ者もおりますが、ワタクシは違います。地球の方々と仲良くしたいと思っております。その思いを伝えるべく、地球人の言語を学び、宇宙の彼方より参りました」
久我の提案により、ミッシュと名乗る地球外生命体を「研究部 新方策専門研究室」に連れて行くことにした。新方策専門研究室(Another Measures Laboratory)・通称AMLは、地球外生命体の歴史について調査し、そこから新方策を考案する部署である。
地球外生命体専門対策局には、かつて、地球外生命体を捕獲し、生態を調べようとした歴史がある。しかし、捕獲した地球外生命体が暴れたことにより、多くの研究者が犠牲になったことから、地球外生命体の捕獲は禁止となった。
AMLのラボには、その当時、捕らえた地球外生命体を閉じ込めていた地下室があった。地球外生命体が出す光線にも耐えられる頑丈な作りになっているため、もしミッシュが攻撃したとしても、被害を最小限に抑えられる。
「いきなりワタクシが喋り出したら、地球の方々は驚いて攻撃してくるかもしれないと正直怯えておりました。しかし、穂浪サマはワタクシに優しく声をかけてくださいました。地球の方々は、やはりお優しいのですね」
AMLに向かう道中、ミッシュが暴れることはなかった。それどころか、穂浪をよほど気に入ったようで、大人しく抱き抱えられていた。そして、よく喋った。ミッシュのお喋りを聞き流している間に、AMLのラボに到着した。
久我がドアをノックしてしばらくしてから、ゆっくりとドアが開いた。中から顔を覗かせたのは40代後半の男性だった。ボサボサに伸びた髪と不精髭のせいで顔がよく見えない。男性は久我の顔を見るや、目を見張った。
「久我? どうした? お前がここに来るなんて珍しいな」
「お久しぶりです、折原室長。急にお邪魔してすみません。実はAMLの地下室を貸していただきたくて」
地下室を話題に出すと、新方策専門研究室室長は眉間にしわを寄せた。
「あんな部屋、何に使うんだ?」
「細々と説明するのが難しいので、単刀直入に言いますと――」
久我が一歩下がると、穂浪が前に進み出た。
「――ここに地球外生命体がいるんです」
途端、折原室長の視線が一点に集中した。
「どうも初めまして。ミッシュと申します。ワタクシは地球外生命体ですが、地球人に危害を加える気はございません。むしろ仲良くしたいと思っております。以後、お見知りおきを」
折原室長の開いた口はしばらく塞がらなかった。髪が伸び放題の頭をガシガシと掻いて余計にボサボサにしながら、まじまじとミッシュを見つめる。
「……久我、俺は今、夢の中にいるのか?」
「いえ、現実です。毛利室長に報告はしましたが、今はこの地球外生命体を安全な場所に移すことが最優先かと」
「ううん……」
と唸った後、折原室長は「分かった」とラボのドアを開け広げた。
「そいつ、そんな無防備にさせておいて大丈夫なのか?」
地下室に続く階段を下りながら、折原室長は久我に耳打ちした。久我は「分かりません。でもたぶん大丈夫です」とはっきりとした口調で曖昧なことを言った。