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1 管制官・逢坂せつな


逢坂(おうさか)。書類の配達、頼まれてくれないか」


 学生時代からの同期である久我(くが)の声に、逢坂せつなはにらめっこをしていたパソコン画面から、約10時間ぶりに顔を上げた。


「ふぁい?」


 久しぶりに聞いた自分の声が間抜けで、昨日の昼にゼリー飲料を口にして以来、何も飲み食いしていないことに気付く。


 とりあえず水が飲みたい。と思ったとき、コップが目の前に現れた。


「お前、また徹夜したのか」


 逢坂はずり落ちた眼鏡を上げながら、久我からコップを受け取った。


「あぁ、まぁ」


 徹夜がバレたらどやされる。逢坂は水を飲んで、曖昧な返事を誤魔化した。ザラザラした喉を冷たい水がスルスルと流れていく。


 逢坂が働いているのは、「地球外生命体専門対策局」という、地球外生命体に関する対応の全てを任されている国際機関である。地球外生命体専門対策局は、「総司令部」「研究部」「地球防衛部」「情報伝達部」「事務部」の5つの部署に分かれており、専門分野によってさらに枝分かれしている。逢坂が所属している研究部は、「個体特性専門研究室」「新方策専門研究室」「飛行経路専門研究室」に分けられている。なお、逢坂は戦闘機の管制と防衛計画の立案を担う「飛行経路専門研究室」の研究員だ。


「で? なに? 配達?」


 水を飲み干した後は、徹夜を叱られないよう、間髪入れず話を戻す。


「あぁ、そうそう」


 久我は思い出したように、小脇に抱えていた茶封筒を差し出した。


 よし、誤魔化せた。逢坂は心の中でガッツポーズをした。


「これ、機体操縦室に持って行ってくれ。俺、これから会議でさ」


 久我碧志(あおし)は逢坂と同期だが、「研究部 飛行経路専門研究室 室長補佐」という長ったらしい肩書を持っている。平研究員の逢坂と違い、何かにつけて会議に出席している。


「機体操縦室? なんで?」


「なんでって、渡したい書類があんだよ」


 機体操縦室は、地球防衛部の中の部署の1つだ。地球外生命体専用の戦闘機「ブループロテクト」のパイロットが所属しており、局の中でも花形とされている。また、女性職員から「イケメン部」と通称されるほど、イケメン揃いで有名だ。


 逢坂は、「イケメン軍団の中に、なぜ私のような地味を具現化した女を放り込むんだ」と思った。


「機体操縦室に行かせるなら……美樹みきちゃんの方が適任じゃない?」


 と、たまたま目に入った、通りすがりの美樹を候補に挙げる。


「ダメ。ありゃパイロットをメロメロにさせちまう」


 久我はあしらうように、手をヒラヒラと振った。


 美樹は1年前にこの研究室に配属された研究員だ。愛嬌のある可愛らしい顔立ちと人見知りしない人懐っこさで、誰とでもすぐに打ち解けてしまえる。そんな若くて可愛い女の子が、男だらけの機体操縦室に飛び込んだら……


「確かに、しばらく帰って来れないわね……」


 と納得してから、逢坂はハッとした。


「ちょっと待って。それって私はパイロットをメロメロにさせる可能性がないってこと?」


「さ〜て、仕事仕事〜」


 久我は逃げるように踵を返した。


「ムカつく」


「そんな言葉遣いじゃ、パイロットをメロメロにできないな」


「分かったわよ! そんなに言うならメロメロにさせてきてやろうじゃないの!」


 言い返しながら、逢坂は数時間ぶりに腰を持ち上げた。腰回りの関節がボキボキと音を鳴らす。徹夜で酷使した脳はぼーっとしていて、体は鉛のように重い。デスクに手を突き、体の様子をみながら恐る恐る立ち上がる。


「年寄りかよ」


 やっとの思いで立ち上がった27歳を、久我が笑う。


「見てなさいよ! ざっと10人くらいメロメロにさせてきてやるんだから!」


 捨て台詞を残し、逢坂はよろよろとラボを出た。




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