そのヨンジュウ 「キャストさん」たち
「うわ怪物だー!」「キャァァァ〜!」
「お客様お客様皆さまどうか落ち着いて……ででで、でもどうしましょうこれー!」
あちらこちらから聞こえて来る悲鳴。突如ワラワラと出現し遊園地を占拠した黒い怪物達の姿に、客もキャストも大騒ぎだ。
そして。
「何だあれ?」「女の子が、宙に浮いてるぞ?!」「どうなってんだ?!」
ピキーンとその場に華麗に見参しちゃったノッコも、当然注目の的。
ハッとようやく気を取り直した槌の輔、
「仁美ぃぃ!お主この場をどうするつもりだ?!」
「もち避難誘導。さっき決めたでしょ?
……ノッコ!『ダークロード・オープン』よ!!」
「だからまたそうゆう?某にわかるように話を進めよ!」
そんなツッコミ二人とも、ああ聞いてない聞こえない。
「ハイセンパイ!こうしてこうして……『ダークロードぉ……オープ〜〜〜ン』♪」
宙に浮いたままのノッコが、またもやシュバっとポーズを決めると、背後に現れたのは、あの怪異たちの闇の渦。そしてそこからバラバラと!
「うわぁ!……あ痛たた、こりゃどうしたことだい?ていうかくねくね!サッサとアタシの上からお退き!」
「うんぐぐ、いや姐さん?そりゃ俺っちの上のトンカラに先に言ってやって!」
「うおおチキショウ、目が回って立てねぇぇー!」
落ちてその場に積み重なる、下から口裂け女、くねくね、トンカラトン。そして。
「ぽぽぽぽ、吸い込むのは得意だけど、吸い出されるのは初めて♪ノッコったら、やるじゃない?」
「ワタシメリーサン、ハッシャクチャンニツカマッテ、タスカッタオニンギョウ♪」
ひらりふわふわ優雅に降りて来る八尺様とメリーさんに。
「せい!……こりゃ口裂けもお前たちも、どんくさいぞい!」
「キキキキィ!」
宙がえりひとつ、タン!と華麗にヒーロー着地をキメるターボばばぁとてけてけ。
全・員・集・合。こっちも行動開始よと、仁美は槌の早苗の腕をつかんで怪異たちの元に駆け寄る。まずはトンカラトン、そしてくねくねを引っ張り起こして。
「仁美?こりゃいったい……」と、ようやく重しが取れて自由になった口裂け女が問うその口を、さっと手で塞いで仁美は。
「ハイお静かに、集まって集まって!ごにょごにょしかじか……そーいう感じで一つ。みんなお願いしまーす!ノッコ、アナウンス!!」
「ハーイ♪……場内の皆さま、どうか落ち着いて下さーい!!」
空中のノッコが、妖力を使った拡声器並みの大声で。
「これからオバケライドのキャスト一同で、皆さんを園の外にお送りいたしまーす!どうか慌てず落ち着いて、オバケの指示に従ってくださーーーーい!!
……オバケの皆さんよろしくでーす♪」
「マジか……アタシたちが、それ?」
「いやこれ、悪い手じゃないっすよ姐さん♪遊園地でなら俺っちらも怪しまれない!」
「クチサケチャン?コーナッタラ、ヤルシカナイトオモウケド?」
「うむ、迷ってる暇はなさそうじゃ」「キイキイ!」
「オレは芝居は苦手だが……仕方ねぇ!チャリで回って、逃げ遅れを探すぜ!」
「ぽぽぽ、それじゃ私が即席出口を作って……ハイ、みんなでお客様をここにね♪」
マスクの中で裂けた口をあんぐりの口裂け女と、早苗の中でこれまた開いた口の塞がらない槌の輔を残して、仲間たちは手早く持ち場に散っていく。
「さ、あたしも!ええと……八尺様、ゴメンその出口、ノッコの真下がいいわ。あと三メートル右に、そうそう!それからあのクルクル画面を作ってもらって……指でサラサラ……うん、書ける書ける♪『臨時出口:EXIT』と。ここでこの看板を高く上げてて下さい!
早苗をよろしくツッチー、どっかに隠れてて。ホラ口裂けさんも!早くお客さんを案内、誘導!あたしは、向こうの方でやりますから、んじゃ!!
……なんかアッチに出口ありまーす!みんなぁアッチよアッチーーー!!」
大声で人々に呼びかけながら去っていく仁美。
「やっぱり……やらなきゃいけないのかい?」
「うむむ……そのようであるな。では口裂け女殿、巫女殿をかくまうので、某はこの辺で……」
自分を残して建物の陰にそそくさと消える槌の早苗。その背中に、口裂け女は本物の幽霊のように恨めしい顔をした。
「え、ちょっとあいつら!何でここに?てか恐子、いいの?!」
「そうね、ちょうどいいかも。実はね?どうやって無関係の人たち逃すか、考えてなかったのよ。ここは任せとけば世話無しでいいわ」
「……いいのぉ?!」
恐子のこの最終作戦とやら。まだ全然詳細を聞いてないけど、しかしこういう場合悪人としては?客やキャストを人質に取って使うのがセオリーじゃないの?ヤスデがそう突っ込むと。
「駄目よヤスデ。オカルトテロならいいけど、脅迫拘束監禁とか、それは犯罪よ?法に逆らうようなやり方はダ・メ!」
(ならいいって?どういう理屈?)
この女の「テロ」の定義って?何を言ってるのかさっぱり、困惑するヤスデに、八ッ神恐子はさらに重ねて。
「あのね?ヤスデ貴女、ちょっと誤解が無いかしら?確認するわ。
貴方の目的は土蜘蛛を倒すこと。私の目的は大蛇様を呼び出して世界を変革すること。
……私たち別に、悪いことしてるわけじゃないのよ?だから手段はちゃんと選ばないと、ね?」
(自覚、無いんだぁ……)
ザ・確信犯。もう慣れたと思う度に超えてくる、相棒の変人っぷりに目が眩むヤスデ。そして。
「そうだヤスデ、私たちも手伝いましょう。プチも使って客の誘導を!
……さ、急ぐわよ♪」
「えええええ……」
「ヘイお嬢さん♪出口はあっち、アッチ。慌てずに♪そっちのお父さんお母さんお子ちゃんもね!」
次々に客を捕まえては、テキパキと誘導するのはくねくね。精神錯乱術を得意とする彼だが、その力を逆に使えばパニック防止にうってつけ。異様な見た目はそのままであるにも関わらず、彼に声をかけられた者はみなホッとしたような顔になる。
「あ、そこのミスお岩さんとミスターフランケン!」
そしてさらに捕まえたのは、本物のオバケライドキャストだ。
「お二人さんもそーいうわけだから!あそこの臨時出口にお客さんご案内してちょーだい♪」
「え?わかりました、でもあなたどなたでしたっけ?」
「あー、俺っちはその、臨時バイトのオバケっす♪さっき社員さんにこれやってって言われたもんで♪なんでお二人も!あっちとそっちをお願いしまっす!」
何もかも全然聞いてない話だが……ま、いっか!それじゃと早速案内を始めるお岩さん&フランケン。ここぞとばかりに洗脳催眠、特技が光るくねくねであった。
「ゴライジョウノ、ミナサマ!エンナイニ、ナゾノカイブツガ、タスウアワラレマシタ!オチツイテヒナンシテクダサイ。タダイマ、コノアンナイロボットデ、ゴアンナイシテオリマス!」
てけてけの上に乗っているのはメリーさん。言葉の話せないてけてけに代わって、客たちに声をかけていく。するすると地面を滑るてけてけ、首も長い手もカクカクと今はお芝居お芝居。
「オバケライドのロボットかな?スゲー、よく出来てるなぁ!」
「よしついて行こう!」
二人とも中々の演技力。たちまち長くなる客の列を引き連れて、粛々と脱出案内が進む。
「ばばぁ!いたぞ迷子だ、連れてけ!」「ホイ任せな!」
爆速チャリのトンカラトン、園内を回って次々に迷子や年寄りを拾って来ると、ターボばばぁが後を引き受けて、背中におぶって臨時出口に。こちらのコンビは速度と回転で勝負。
空中高くアナウンスを繰り返すノッコ、神隠し能力を応用したワープゲートで客を直接園外に出して行く八尺様。みなそれぞれに怪異能力を活かし、レスキュー活動は滞りなく……
いやしかし、ただ一人。
「ええと……あ、あのぉ、おキャく様ぁ?」
声が裏返ってる口裂け女。驚かすのは得意だが、こういうのは……シャイにはにかむ顔は前代未聞。出口の周りでただまごまごするばかり。
そこにやって来たターボばばぁ。
「こりゃ口裂け、お主何やっとるんじゃい!恥ずかしい?仕方ないのお……じゃ、お主はな?わしが連れて来たこの迷子ちゃんの番をしておれ」
「……え?」
「客はみんなここから避難させるんじゃろ?だったらここで待たせておけば、そのうちこの子の親も来る。その間、この子を見てろってこった!」
「いやそういうのは、すぐそこに八尺がいるからあいつに……」
「あやつに子供はダメじゃ!……子供はの?あやつ本気で攫うから」
「ぽぽぽ、二、三日の間だけよ?ターボばばちゃんのイケズぅ~」
「ほれ見ろ、油断も隙もない!……わかったな?じゃ口裂け、この子は任せたぞい!」
「あああ、ちょっと待っ……」
止める間もなくダッシュで去るターボばばぁ。後にのこされたのは。
「ふぇっ……ひっくひっく……パパぁ、ママぁ〜〜」
(いやこんなの……どうすりゃいいのさ……)
泣きべその迷子と、こちらも泣きそうな顔の口裂け女。
「ぽぽぽぽ、口裂けさん?そういう時は取り敢えず『いないいないばあ』よ?難しい?
……だったらわ〜た〜し〜が、見本をををををををを〜」
「いやいい!いいからお前は近寄ンな!」
子供に寄ってきたその顔が、どう見てもアブナイ。怪異の本性丸出しの八尺様を慌てて手でアッチイケして、
「こうなったらヤケだよ!……い、いないいな〜い、バァ?」
「……きゃは♪オバケおばさん、お顔おもしろ〜い♪」
なぜかウケた。たちまち機嫌を直して笑い出した子供の顔にしかし、いいしれないモヤモヤ感。これは上手くいったのか?それにしては、この胸に湧き上がる敗北感はいったい?闇に生まれ闇に住まう現代怪異として何か、大切なものを失った気がする口裂け女。
そしてさらに。
「ハイ迷子係さん、連れて来たからこの子もお願いね♪」
「いやアタシは迷子係じゃなくて……ってお前はぁぁぁ?!」
「私?私も臨時バイトの蛇の目オバケよ♪」
八ッ神恐子である。素早く口裂け女の耳元に近づいて。
「……ヒソヒソ……場内のお客さんをみんな逃すまでは、私も協力するわ。見てたけど、あなた子供のお世話、上手じゃない?適任適任」
「がっ……ぐっ……」
まさかこの女に今のあれを見られた?顔から火が出る思いの口裂け女。それに事の元凶が?!どの口で言うセリフ?!フルパワーでツッコミたいところだが、今は子供の手前、怒鳴りも出来ない。ギリギリ歯がみするばかり。
そしてさらに見れば、恐子の傍らにはあの小型宇宙人ロボットと黒服の妖怪少女ヤスデ。
(うん。わかるよ、その気持ち……)
と、こちらは口裂け女に心底同情している顔つきだ。
(これに付き合うの、キツイよね……)
こくこくとなだめるような頷きを二、三度。そして困惑にクシャクシャの口裂け女の顔は、敵ながら不憫で見ていられない。ヤスデはプチを連れて気まずそうにその場をそそくさと離れて行く。八ッ神恐子はそれを追ってこちらはいそいそと。
「あら待ってヤスデ……もう!なんかあの子随分張り切ってるわね?そうね私も行くわ、油売ってないでドンドンお客さん避難させないと!
……じゃ、その子ヨロシク♪」
なんだか軽やかな足取りでヤスデを追って去るケバケバ。
「ぎぎ……うぐぐぐ……」
「ぽぽぽぽダメよ口裂けさん、お顔が固いわ。子供が見てるから、笑顔笑顔よ……例えばこんなふうにぃぃぃぃ〜」
「いやいいから!お前も引っ込んでろ!やればいいんだろう、やればぁぁぁぁー!」
そしてその後、次々と口裂け女の元に集められる子供たち。その全員になぜか、彼女の「いないいないばあ」は大ウケであった……
「来たね」
昴ヶ丘行楽園、最寄りの駅はそのまま「行楽園前」。そのホームで帰りの電車を待っているのは、珠雄とニコ。
今、二人の目の前に電車が滑り込んで来た。
「……」
切なげに伏し目がちなニコ。無論理解はしている。自分があの場所に留まっても足手纏いになるだけ、それは結局皆のためにはならない……
(でも、飲み込めないよ……)
友達のノッコちゃんを置いて、自分だけ逃げるなんて。
「……さ?」
電車は到着した。開いたドアに先に入るよう珠雄が促す。ニコは思い直す、いや左波島くんだって同じ気持ちなんだから……首を左右に未練を振り切って、ホームから電車に乗り込む。
するとどうしたことか。後から乗り込んだ珠雄は自分を追い越し、決して少なくはない他の乗客を猫のしなやかな体捌きですいすいとかわしながら、何故かつかつかと車内を早足で通り抜けていくではないか。
「え?あの、待って……」
追って行くニコ、だがもちろん珠雄のようにはいかない。車内の中程で他の客の体に進路を阻まれ、まごついたその時、それを見計らったように!閉じかけのドアから珠雄は電車を降りる!
「……左波島くん!」
ニコのその声は、珠雄にはもう聞こえなかった。
(ごめん。仁美さんにはああ言われたし、僕から君にもそう言ったのにね。でも僕にはやることが、出来ることが一つあるんだ。でもそれはまだ、誰にも言えないから。
うん、やっぱり僕は嘘つきだ……)
疚しい顔は、しかし一瞬。電車で去るニコを見送って振り向いた珠雄は、決意を目に秘めていた。
玄関の呼び鈴が鳴る。誰か来客かそれとも、と戸口に向かう蛍子。
「はい、どちら様でございますか?……あら、これはこれは神社の先代さ……」
言いかけて、言葉が止まる。いや、金縛りになったように全身がピクリとも動かない。
「そうかやはりお主も妖怪か。当たり前じゃな」
巌十郎の発する、その凄まじい霊気の渦。それは蛍子の体をがんじがらめに絡めとる。動けないどころか、呼吸すら止まりそうだ。
「あれの連れ合いではな。人であるわけがない。いや、しかしお主に用はない……」
(大……殿……様……!)
止めようにも、蛍子は声一つ出せない。そして奥から慌ただしく駆けつけた土屋に、
「土屋蔵人。いや、妖総大将土蜘蛛。よくもこれまで、この鴻神巌十郎をたばかり続けてくれたものよの」
巌十郎がかけた言葉はあくまで低く静かだ。だがその冷たさはさながら、抜き身の刀のよう。
「これでお主も最後、だがここでは近所に迷惑が及ぶか……丘の上の広場まで、共に来るが良い。そこで!」
(これは……)
簡単に言い訳の出来そうな顔ではない、気配ではない!すぐに悟った土屋は、黙って頷き巌十郎と連れ立って去って行く。
いや、ただ一言。
「来るな蛍」、そう言い残して。
(続)




