そのニジュウサン マザーさん
「ジャジャーン♪センパイ、ニコちゃん連れて来ちゃいましたぁ♪」
登校再開後、初めてのオカルト研究会活動日。
「あの、ノッコちゃんに誘ってもらって見学に来ました。凡野さん鴻神さん、よろしくお願いします……」
相変わらず控えめなニコが、少しモジモジしながらそういうと、
「来た来た、来ると思ってた!待ってたよニコ!」
「いらっしゃい弍ノ口さん」
仁美と早苗がにこやかに迎える。サッと駆け寄った仁美がニコの手を取り、早苗がイスを一つ引いて席に招く。
「この間もちょっと話したけど、このオカルト研はね?元々ただのおしゃべり会みたいなものだから。入会がどうとか、そういう堅苦しいことは抜き。ノッコのところに遊びに来た気持ちで、どうか気楽にね」
「ムフー、今後も勝手に入り浸ってちょーだい!もちろん?キミがメンバーになってくれたら嬉しいけど!」
相変わらず二人とも、やり方はそれぞれながら人との触れ合い方が暖かい。ノッコはしみじみ思う、こんな二人だからこそ、自分を受け入れてくれたのだ、と。そしてノッコの中に新たな思いがもう一つ。
(そうだ、わたしももっと……!)
「フフフ……クク……アハハハハ!見なさいヤスデ、どう、これ?」
「うわ〜……キモッ!何コレ恐子?」
あの廃棄物不法投棄場を引き払った、八ッ神恐子とヤスデの悪玉コンビ。今度のアジトは川沿いの廃工場だ。大半は長閑な田舎町である昴ヶ丘にもこんなところがあるのか、という裏ぶれた工業団地の片隅に、廃業したまま設備の解体費用も捻出出来ず、ただ放置されたその工場。
(いや恐子ってば、よくこんなところ見つけるよね……?)
相棒は確かに、妖術師としての腕前はピカイチだ。一応千年生きて人間のことも長年見て来たヤスデも、そこは素直にそう思う。
ただそれとこれとは別の才能、別の趣味。単に目ざといというだけではない。
(恐子、絶対こういうアジト探し楽しんでるよね……廃墟マニアってやつ?)
ま、まぁいいけど、ヤスデは思う。ここ昴ヶ丘には土蜘蛛の手下がたくさんいる。前のアジトもそれで嗅ぎつけられたのだろうし、今も自分を探しているに違いない。だからどんな場所だろうと、恐子が自分にこうして適当な隠れ家をあてがってくれるのは、素直にありがたい。時々ドーナツやクロワッサンの差し入れもしてくれるし。
そう、今や問題は場所ではない。ここに恐子が持ち込んだ「それ」が大問題なのだ。
その日、リュックで八ッ神恐子がアジトに運んできたのは、魔法瓶の様な酸素ボンベの様な何かの装置。床に立てて置いたその上部のフタをくるくると回して開くと。
ソロソロと中から這い出したのは、真っ黒なタコのような何か。だがタコの例えで言うなら、いわゆる頭と呼ばれる胴体部分からも無数の足の様な触角の様なものが生えている。そして。
「オあオあああ〜」
どこが発声器官なのかまるでわからないが、かなりヤバめの声で鳴くではないか。
「まぁ、まだ成長過程だけどね」
(つか待って、コレってもっと育つの?)
怖気を振るうヤスデの顔を無視して、八ッ神恐子はいつものように偉そうにふんぞりかえって。
「これこそが私の造り出した新しい下僕、『TDQ203X-JP』!またの名を『大グロゲロ』よ!」
「や?恐子それさぁ……見たまんま過ぎ!ネーミングセンス最っっ悪!」
呆れ果てたヤスデ、遠慮なく言い切った。もちろん恐子は何かまた屁理屈で言い返してくるだろうが……と思いきや。
「んー、やっぱり?私もそう思う。誰がつけたか知らないけど、ろくでもない名前よね」
「……え?」
「例えば『フラットウッズ』はね?あれは私が造ったけど、あの名前は宇宙人事件が起こったアメリカの地名がそのまま宇宙人の通称となったもの。私がその名を考えたわけではないわ。
この『大グロゲロ』もね、元からそういう名前なのよ。私の術の性質上、そこは私には変えることは出来ないの。
……そうだ、フラットウッズ!ヤスデ喜びなさい、修理とチューンナップが完了したわ。ハイ、リモコン!
今度のフラットウッズは貴女に合わせて、貴女専用に改造したの。今までよりずっと自由に動かせるはずよ、呼んでみなさい!」
「ホント?よぉし!」
恐子の言葉にあった、なにやら妙な含み。まぁいっか、ヤスデはあっさりそこは忘れることにした。どのみちこの変人の言うことやることなんて、まるっと全部理解など出来るわけがない。パスパス。
それより今は、自分のオモチャの方がはるかに気になる。新しいフラフラ君、それも自分専用機だという。これはワクワクものだ。
期待に目を輝かせ、リモコンをガッと握り締めたヤスデに、恐子は。
「一応先に断っておくけど、見た目は今までよりだいぶショボいわよ。でも簡単にガッカリしないでね。
……使って見ればわかるわ、性能はいろんな点で逆にドーン!と向上してるから!」
「わかった!試してみる!」
上機嫌の二人の足元で、謎の黒い怪物はただオあオあと鳴き蠢いている……
「あの!仁美センパイ早苗センパイ、ウチのサークル活動について、一つ提案があるんです!」
ニコを迎え、さていつもの仁美の講義からという時に、ノッコが急にそう切り出した。
「おっとぉ?」出鼻を挫かれた仁美だが、口にはニヤリと笑み。またもやあのハカセ口調で。
「何だいノッコくん?新提案?面白いことかね?」
「ええと、ウチもですね、お隣りを参考にして、活動に『ロープレ』を取り入れてみたいんです。別にお話に沿ってゲーム進めるとかそういうことじゃないんですけど……つまり……例えば!
わたしはツチノコ大好きだから、正体がツチノコのツチノコ妖怪少女!ここではそういうお芝居をしながら過ごしたいなって」
「んん?むむむむむ……どゆこと?」
「なるほどね」
首を捻った仁美に、早苗がサッと目配せしながら、皆の顔も集めてヒソヒソ声で。
「全部お芝居……ということにするのね?それなら正体を隠さずにいろいろ本音で話せるようになる……そういうことでしょ、ノッコ?だったら!」
と、ウィンクを一つ皆に投げ、今度は大げさな素ぶりと聞こえよがしな大声で。
「私は家が神社だし!役柄は、スーパー霊能力巫女ってことで!……ああこれ、楽チンだわ〜!秘密って肩が凝るものだったのね。
弍ノ口さん?あなたは、名前の通りでいいんじゃないかな?大丈夫よ、全部お・し・ば・いだから!」
「え?あ、じゃあその、わたしは……日本のトラディショナル妖怪、二口女……ですか?」
「や、いいじゃんニコ、その調子!
……なるほどぉ、これは名案。一本取られたよノッコくん。さてしかし、そうなると吾輩はどうするか……」
確かに仁美はある意味色々規格外だが、「正体」とまで言えるものは別にない。この中で一人だけ、そのまま素の女子高生だ。
ふむふむとエアあごひげをしごくこと2〜3回、なにやら熟考のジェスチャーの後、ポンと大げさに自分の両膝を叩き、
「よろしい!吾輩は、気鋭の若手妖怪学者・兼・オカルト作家という事でひとつ!!」
「アハハ、仁美センパイ、それわりといつものまんまですね!」
「だってリラックスできる役柄を選ぶんでしょ?あたしならやっぱこう。それにさ、これは憧れの土屋先生のマネっていうか。あんな風になりたいんだ、あたし。
いいよねノッコ、お養父さんの設定借りても?」
「……もちろん!嬉しいです!」
満面の笑顔のノッコ。そして彼女にはさらに、胸中期するところがある。これは初めの一歩。
(ようし、これから、もっと!)
そして仁美にも実は、皆には言わない秘密。
(あたし、流石に学者は違うけど、作家は……おっと、これはまだナイショだし!)
そして。
朗らかに盛り上がるオカルト研究会。その様子を、隣のゲーム組はチラ見する。
「……なぁタマ、あれ何が始まったんだ?」
「さぁ?僕も聞いてないです。今思いついたみたいですよ」
「にしても妖怪が二人、巫女に、学者……変則だけどわりといい感じのパーティじゃね?」
「面白ぇな。今度シナリオ考えて合同セッションでも誘ってみっか?」
「それじゃタマはあっちに貸し出しで。妖怪パーティに化け猫追加!」
こちらもギャハハと盛り上がる。珠雄は一人フクザツな苦笑い。
(ま、それなら僕も素でいけるけどね……)
そしてそして。
「……あー面白かった!恐子、テスト完了!新しいフラフラ君最高だよ、これならあたしもバッチリいける!これから二人でガツンと働いちゃうよ!
……ねー、フラフラ君?」
「フララララー!」
「頼むわよ。私も作戦を進めるわ。まずは小グロゲロの養殖から」
「……よ、養殖?」
聞き捨てならないその言葉。食い付くヤスデに、恐子はシレッとした顔で。
「そ、養殖。これはマザー個体、大きくなったら今度は発芽・分裂して数がどんどん増えるの。これからの作戦は兵隊も沢山要る、このアジトを養殖場にして……」
「オあ〜〜〜〜」
「イヤ!恐子それめっちゃイヤぁぁぁ!」
「フラァァァ!」
「オあ〜〜〜〜」
悪玉コンビも違う意味で大分盛り上がっていたのだった。
(続)




