そのニジュッテンゴ 左波島ファミリー
珠雄によるノッコへの「変身コーチ」の提案。いや正確には。
「ただですね、ノッコちゃんは女の子だから。上手く変身出来てるか確かめたりするのに、僕だとやっぱり色々と差し障りが……ね?だから僕もお手伝いはしますけど、メインコーチは僕のママに頼もうと思うんです」
珠雄の母・身衣子は息子同様化け猫で、しかも土屋が指導するママさん茶道教室の生徒。土屋夫妻とは実はすでに顔なじみだ。信用も充分。
「僕の亡くなったパパ。化け猫だったパパは、まだ普通の猫だったママを公園で拾ってきて、猫のままでお嫁さんにして。そのママに化け方を教えたんです。それでママも化け猫になって。それから猫の僕が生まれて、パパとママに化け方を教わって……パパが亡くなってからはママ一人で教えてくれましたけど……それで僕も今この通り、すっかり化け猫です。
あと実はその、僕近々結婚の話があって。またどこかから猫の女の子を拾うか譲ってもらうかしてですね、ママと僕、二人で化けられるように教えてあげることになってるんですよ。
ウチは、左波島家は代々そんな感じで続いててですね……」
なるほど、猫的には彼はすでに「適齢期」なのかもしれない。が、見た目はまるでまだ高校生の珠雄から、結婚の話とはいささか生々しい。しかも猫的にはノーマルな「結婚」なのだろうが、やり方にどうにも漂う犯罪臭。聞いていたノッコが顔を真っ赤にしたことも、ハシタナイ好奇心でコーフンする仁美を抑えるのに早苗が苦労したことも、お話が進まないのでその辺は別の機会とさせていただいて。
ただ珠雄がそんな話をここで持ち出した意味は、皆に通じた。つまり珠雄もその母・身衣子も、自分が化けるのみならず、それを教えることにも長けている、そういうアピールなのだ。
パッと明るくなった座の雰囲気を受けて、珠雄はにっこり笑いながら。
「ね、ノッコちゃん?元々ただの猫だった僕にだってこれだけ出来るんだから。神様の子の君なら大丈夫。僕なんかよりずっと早く覚えられると思うよ。安心して、僕のママにまかせて。先生、僕、今日これから早速ママに頼んでみます」
土屋一家に否やのあるはずがない。あの日、珠雄は喜色満面の土屋一家に送られて、皆よりいち早く土屋家を後にしたのであった。しかもややそそくさと。珠雄はその時、一人になりたかったのだ。そう、帰宅の路での彼の心中は複雑。
母を土屋家に近づけるのは正直、危険な賭け。問題はあの、大問題な隣人!
彼女の居住場所と、彼女と母の親しい交際は、なろうことなら最後まで誰にも知られたくない。しかしここで、珠雄の腹で働く天秤秤。
でももし知られたとして。ここで母から土屋家に恩を売っておけば……それは母にとって強力な保険になる!
その日の土屋家での会談中、彼は一人密かにずっとそれを考えていたのであった。そして結論を下した。
(ごめんねノッコちゃん。ホントはさ、こんな駆け引き無しですぐに協力してあげたかったんだけど。でも僕はさ、ママのことも守らないと……
あ〜あ!何が『友達だから』だよ!僕って、ズルいな……)
フゥと自嘲のため息一つ、それでも彼は賭けに出ることに決めたのだった。
かくして次の日から、パートの仕事を休みいそいそと土屋家に日参の身衣子によって、ノッコに左波島家自慢の化け術がこんこんと教示されて(それがどんな指導で訓練だったのかは……これまたお話の都合でまたの機会に)。
そしておよそ一週間後。ノッコはすっかり元の姿で再登校を始めたのであった。
それは実は、超がつくほどのハイペース。
「流石は先生のお嬢様!ご上達がとっても早くてね、ママびっくり。まぁでも、ちょっとママも鼻が高いわ、我ながら完璧なコーチだったもの。先生にも奥様にもお嬢様にも、と〜っても喜んでいただけたのよ!」
うん、まずはよし。どうやらバレてない。珠雄も一つ胸をなでおろした。しかしここで彼はさらに念を押す。
「ところで、ねぇママ……ノッコちゃんのことはさ、誰にも言ってないんだよね?
……例えばさ……蛇ノ目さんとかにも……?」
わざとらしい。珠雄の声はちょっとかすれる。
「え?ええ、ええもちろん大丈夫よ珠雄ちゃん。ママ、珠雄ちゃんにも約束したし、先生からもお願いされたし。『娘は人間として育てたいんです、どうか今回のことはご内密に』って!これからも、誰にも話したりするつもりは無いわ。
そうね、今度のことでママ毎日一日中先生のお宅に出ずっぱりだったから。ここんとこ蛇ノ目さんともお話してないわねぇ……どうしたの珠雄ちゃん、コワイ顔しちゃって?」
あっちにも、まだどうやらギリ知られてない!ちょっと不安だけど……
ともあれ珠雄はさらにもう一つ、心の中でガッツポーズの拳を握るのであった。
(続)




