嘘が真
──私・柳井真には鴨居という友人がいた。
鴨居は心理学を専攻しており、その過程で噂の広がりについて学んだそうだ。
「──噂と言えば、某銀行の倒産騒動は有名だろう。噂の元を辿っていった結果、女子高校生の悪意のない会話が発端だと結論がついた。実に噂の真実とは怖いものだ」
「そうね。噂の真実が他愛もないものでも巻き込まれた方はたまったもんじゃないわ」
私は言葉に鴨居に頷いた。
「特に昨今はSNSの発展も目覚ましく、一度流れた噂はあっという間に広がる。都市伝説などもそのうちに入るだろう」
「都市伝説? 口裂け女とか、きさらぎ駅とかの事?」
私は鴨居からそんな言葉出ることに驚いた。鴨居は都市伝説などに興味がない人物だったからだ。ただ、ホラー好きの私としては切っ掛けは何であれ、同士が増えた様で嬉しい気持ちになった。
「そこでちょっとした実験を思いついたんだ」
「実験?」
鴨居は不敵な笑みを浮かべた。
「都市伝説を作れないかってな」
「都市伝説を、つくる?」
鴨居曰く、都市伝説だって元は誰かが流した噂。だったら、噂が広まりやすい条件を踏まえた上で噂を流せば新たな都市伝説が広められるだろうという事らしい。
「自分が流した噂が都市伝説になる面白い試みだろう?」
私は鴨居の計画に胸を踊らせた。本当は一緒に作りたかったが、その頃の私は何かと忙しく鴨居の計画に加わる事は出来なかった。その代わり鴨居に経過報告をしてもらう事にした。
それから早速鴨居はある条件を踏まえた噂を作り出したらしい。
その条件とは内容が当事者にとって重要である事、また内容についての情報が曖昧である事だ。
これが噂を広げる為に重要な条件だそうだ。
そして、真実味を出す為にフリー素材からそれらしい画像を添付して噂を書き込みサイトに流した。
その結果、噂は密かに広まりを見せた。
「──結果はどう?」
「上々だよ! この噂が上手く広がれば都市伝説の仲間入りだな!」
鴨居はやや興奮気味にそんな報告をしてきた。
しかし、その数日後久しぶりに会った鴨居は酷く青白い顔をしていた。
「──真、おかしいんだ」
一体何があったのかと尋ねてみると鴨居は理由を話してくれた。
鴨居は最近日課になっていた噂の広がり具合の調査をしていた。噂が僅かに変化していたそうだ。それ自体は珍しい事ではなかったので流していたが、ふと奇妙な点に気が付いたらしい。
それは鴨居がフリー素材から探して来た画像である。
「そこに最初に写っていなかった筈の女が写ってたんだ」
「見落としていただけじゃないの? 別のよく似た写真だとか」
私は信じられずそう言ったが、鴨居は首を左右に振った。
何でもその画像は鴨居が最初にアップしたものらしい。その画像には何処かの地下道が写っているだけで、人影は一つも写っておらず、見落とす筈はなかったのだ。
「もう少し調べてみるよ」
話を聞いても信じられない私に鴨居はそう言って別れを告げた。
しかし、その日を境に鴨居とは音信不通となってしまった。
「──鴨居って誰? そんな人いたっけ?」
不思議な事に、その日から鴨居の存在を覚えている者は私以外いなくなった。まるで最初からいなかったようにだ。
私は鴨居の流した噂を調べてみた。大まかな話は聞いていたのでそれを下に調べたのだ。
内容はよくある異世界へ行ってしまうというものだ。
鴨居が流した噂を探すのに然程時間は掛からなかったが、私はある画像に辿り着き、目を疑った。
その画像に写っている女は、──消えた筈の鴨居だったのだ。
私は悟った。
噂を流すうちに噂が本当になってしまったのだと。
鴨居はその噂に取り込まれてしまったのだ。
──これがこの噂の真実である。
私は書き込みサイトでそう締め括りスマホの電源を切った。
これから私はこの噂を探る為、調査に出掛けるのだ。あの日の鴨居の様に──。




