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メンヘラメイデン・プレイタイム 〜異世界来たからリスカやめる〜  作者: みゅにえ〜る
第一章 王女暗殺篇 全11話
9/11

毒女が行き遅れるとも限らない

毒の湿地は文字通り土地全体が毒付けだ。

草木は勿論、泥の地面や大気にも、もれなく全てが毒性を帯びている。

泥の地面は、立ち入る物のスタミナと機動力を奪い続け、毒を帯びた狂暴な魔物が弱りきった旅人に追い打ちをかける。

ギルド協会が特別禁足地に指定した超危険地帯だ。


俺達にとっちゃ、庭みたいなもんだがな!


「お姫様。この沼の臭いでご気分が悪くなられたりしたら、遠慮なく私にお申し付けくださいね。」

「全然大丈夫よ!」


ミルトアは浮いてる。

馬車と俺とダズは、ミルトアの敷いた光の道を進んでいる。

エルフ二人はシロの召喚したドラゴンに乗ってて、ロウウィンは空飛ぶ骸骨馬に乗ってる。


「なあシヴェラ、今日は随分と敵が居ねえなぁ。」


「どうしたダズ、物足りねえのか。だったら俺が相手してやろうか?」


「がっはっはっはっは!そりゃ良い!今度うちの村に来いよ!若いもんに、ブレイズの本気の戦いを見せてやりてえんだ!」


「良いけど大丈夫か?下手すりゃ村の建物全部ぶっ壊れちまうぞ?」


「がっはっは!壊れたらまた作り直せば良いんだよ!」


その時だった。


「おい戦闘狂共。お目当てのもんが来たぞ。」


ロウウィンの声。

目の前に、湿地の魔物をはべらせた女がいた。

女が乗っているのはこの湿地を統べるネームドモンスター、《大蛇ムシュフシュ》

両脇を固めるのは、同じくネームドのゾンビ《亡国の戦士ガジャザ》と、紫色のずんぐりむっくりなトカゲ《毒龍王ジガド》

そして更にそれを取り囲むのは、沼地から搔き集められた有象無象の魔物共。


「待っていたわよ。ブレイズ御一行様。」


あの女は見た事無いが、状況から考えるにどうせブラックギルドだろう。

魔物共は元からここにいた奴らだから、召喚はできずに操術だけ使えるパターンか。


「へ!ようやくまともにやりあえそうな相手が来たじゃねえか!」


「お手柔らかにお願いね。うふふふふ。」


俺達の立ってた道が広がって、光の床になる。


「全力でアシストさせていただきますわ。」


「あんがとよミルトア!うっし、んじゃ行くぞおめえらぁ!」


魔物軍団が床にあがってくる。


"うがああああああ!"


「おらああああああ!」


ガジャザの拳をドズが受け止める。


「こいつは俺に任せろ!中々楽しめそうな相手だ!」


ジガドが毒霧ブレスを吐いたが、シロのドラゴンの光ブレスと相殺した。


「こやつはわしらに任せろ!行くぞターシャ!わしに合わせろ!」

「はい!族頂院様の御前に相応しい戦いをお見せします!」


有象無象共は、ロウウィンのゾンビ軍団とかち合った。


「お前どうぜ雑魚には興味無いんだろ。行けよ。」


「こんな奴ら一振りで片付くわ!お前の軍隊ごとな!」


「良いから行けって!」


「ッチ…ありがとうなんて言わねえぞ!一つ貸しとくだけだからな!」


剣を構え、俺は女と相対する。


「あたしの名前はレン。ブレイズのシヴェラと戦えるなんて光栄だわ。よろしくね。」


「黙れ行き遅れ女!お前なんざとっとと叩き切って、俺達はこの森を抜ける!」


「い…行き遅れ…!?言っとくけど、あたしには夫も子供も居るんだからね!【魔獣操術.魔能共有.アシッドアビリティ】!」


ムシュフシュの口や鱗の間から、紫色の毒液が滲み出てくる。

毒液はまるで生き物みたいに蠢き、女とムシュフシュを守るようにまとわりついた。


魔能共有だと?

どうやら、今までの奴らとは違うようだ。


「上等だおらあああああああ!」







1000年前。

ガルトン族は、食糧難をきっかけに二分した。

戦闘民族としての力を略奪に使うべきと主張した者たちは、自分達をジャウトの民と名乗り、村を出ていった。

ジャウトの民は500年ほど略奪を繰り返した後、返り討ちや復讐に逢うようになり、やがて自然消滅した。


この事件は忌むべき歴史として、部族の中で今でも語り継がれている。


“グルルルル…ガガガガガ…”


目の前のゾンビはまさに、言い伝えられたジャウトの民の特徴と完全に一致してた。

右胸に刻まれたタトゥーで階級を示す文化は、どうやら俺たちと一緒らしい。

こいつの階級は、在上位を示す龍の位。

今のガルトン族には俺含め、もう長らく龍の位を冠する者はいない。


さっきの一撃で分かった、手の内はは俺と全く同じ、ガルトン戦闘術。

そして階級から、間違いなく俺より格上の相手。


「がっはっはっはっは!まさかこんな相手と戦えるなんて、思ってもみなかったぞ!やはり、たまにはアウトドアもいいものだなぁ!」


熱気。

冷たいアンデットからはありえないほどの熱量。

来る!


“ガアアアアアアアアアアアア!!!”


両拳を高く構え、突進する技。

ニ岩撃拳(にがんげきけん)

基本の技だが、熟練者のそれは一撃で大岩をも砕くとされている。


面白い。


「かかってこい!龍の位の戦士よ!はあああああああ…【二岩劇拳】!」


“ドンッ!ドガアアアアアアアアン!”


拳同士が衝突し、衝撃波が広がる。

ミルトアの光の床が、波紋を打つように少し歪んだ。


「ぐ…ううう…!」


きっとアンデッド化して久しいのだろう。

筋肉が朽ちたのか、力自体はうちの若いのにすら劣る。


“ゴガアアアアアア!”


にも関わらず、押されているのは俺の方だった!

きっと力の掛け方、重心の位置、筋肉の使い方が完璧なんだ!


「ぐ…うおおおおおおおおお!」


全力を持ってしても、今の俺では奴との拮抗状態を維持するのが限界だ。


“バキッ!バゴン!”


奴の朽ちた拳が、とうとう限界を迎えて破壊された。

もっと、奴の技術を見ていたかった、感じていたかった。

だが、今の俺は戦士ではなく冒険者、チャンスは掴むしかない。


「隙あり!【破壊連撃拳】!うおらあああああああああ!」


この技は、俺の十八番だ。

ブレイズとして旅した6年間の中でも、部族に戻った後も、この技を受けられる奴とはついに出会わなかった。


“カカカカカカカカカカカカカカカカカカ!”


それをこいつは、脚だけで全て捌ききってやがる!

圧倒的技術。

倒せるビジョンが思い浮かばねえ。

これは俺の全力の技、受け切られた後のことなんて考えちゃいねえ。

どうする…もうすぐ技が切れる。

俺と同じ武を志していながら、俺より手強い相手と出会っちまうなんて…

なんて素晴らしいんだ!


「もっと…もっと見せてくれ!おまえの身のこなしを!技を!俺に教えてくれ!」


負けるかもしれないというのに、どうしてこんなに楽しいのだろう。


“バキャッ!”


「…あ?」


気付いたら、ガジャザは砕け散っていた。

俺の攻撃と奴の技能に、朽ちた身体が耐えきれなかったのだ。


非常に残念だ。

あともう少し、俺が早く生まれていれば…いや、それはないな。


自力で辿り着いて見せるさ。







毒龍がブレスを吐くたび、シロ様の精霊龍がそれを相殺する。


「今じゃキャーシャ!」


「は…はい!」


隙をみて弓を引きしぼり、魔力を込めて矢を放つ。

何本もの屠矢を命中させているけど、さすがドラゴンまるでビクともしない。

地龍ベースだから、きっと体力がすごく高いのだろう。


“グオオオオオ!”


ただその分、攻撃範囲も機動力もシロ様の精霊龍には劣っている。

テイルスイングも、突進も踏みつけも、常に空飛ぶ私達には届かない。

射程で大幅に勝るこの矢を打ち込み続ければ、一撃も被弾することなくいずれ勝てるだろう。


要するに暇だ。


「…のお、キャーシャ。」


シロ様もこの状況を察したみたい。


「お主は、みるみるの主張をどう思っておる?仮にブラックギルドを選ばなかったとしても、あやつは裏切者として処断されるべきじゃと思うか?若者の意見が聞きたいのじゃ。」


「………」


確かに、エルフは何かと不自由が多い。

俗世社会には基本出られないし、結婚相手も満足に決められない。

でも、


「掟に全て意味があるのなら、わたしはそれに従います。」


「…エルフを縛る掟は、太古の昔に人間によって定められた物じゃ。表向きには、異種族の共生が円滑に進むようにと謳っておったが、実際は際限なく生き続けるエルフが、自分らの社会においてうっとおしかっただけじゃろうな。」


「………」


「それでも掟があり続けるのは、もしかしたらわしらが、ただ臆病なだけやもしれん。人と、俗世と、向き合うことが。」


「それでも私は守ります。守って、修行を積んで、シロ様と同じくらい偉くなって、この手で変えてみせます。」


「…!そうかぁ…!そうかぁ…!」


シロ様はとても嬉しそうだった。


“グル…グゴオオオオ…”


沢山の屠滅矢を受けて、とうとう毒龍が倒れる。

すぐに腐敗が始まって毒ガスが立ち上り始めたけど、精霊龍の全力ブレスを吹き付けられ、すぐに浄化されきってしまった。

毒龍が弱かったんじゃない、たまたま私達が有利な戦法をとれただけ、きっとシヴェラだったらもっと苦戦してたと思う。


得意な相手を受け持つのも。チームワークってね。







毒女の毒液が、触手みたいになって俺に飛んでくる。

早い、だが!


「効かねえんだよ!【煉剣】!」


煉剣を振るうと、毒液はすぐに揮発しちまう。

次の毒が補充されるまでのこの時間が、奴の隙だ!


剣を振り上げ、飛び上がる。


「はああああああ!」


「く…!」


蛇が後退しやがったのでかわされた。

当たり前だが、やっぱ機動力が高いな。


「【魔獣操術.魔能指令.アシッドブレス】!」


ムシュフシュが毒液のブレスを放つ。

色は通常の紫じゃなくて、猛毒を示す赤色。

当たったら即死だなこりゃ。


“バシャアアアア!”


光の床がせり出して壁になって、ブレスを弾いた。

ミルトアだ。


「毒の対処はお任せを!シヴェラ様は全力で前に進み続けて下さい!」


ミルトアは、俺の最初の仲間だ。

同じ村で育ち、村のみんな全員が反対する中、一人だけ俺の夢を応援してくれた。

都に出るときも、冒険者登録するときも、ずっと一緒にいてくれた。


だからかな。


すごく、息が合うんだ。


光の床が階段みたいになって、俺を毒女のところまで導いてくれる。


「どうしたのムシュフシュ!早く距離を…な!?」


蛇を抑え込んでいるのは大量のゾンビ。


「お前が一回空振りするたび、俺の帰宅時間が遅れるんだよ。」


「けっ、余計なお世話だよ!…だが、助かった。ありがとよ。」


「何か言ったか?」


「余計なお世話だって言ったんだよ!」


ムシュフシュの尻尾が振り回されるが、ゾンビどもはしがみついて離さない。

機動力が落ちた今がチャンスだ!


俺は階段を駆け上がり、ムシュフシュの頭、女の元まで辿り着く。


「そこを退けえええええええ!ブラックギルドおおおおおおおお!」


「いやあああああああああ!」


「【煉剣】!」


燃える斬撃が、ムシュフシュを真二つに両断した。

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