デバナブレイク
シャッズさんとの密会が終わった。
今は酒屋の地下の活動拠点本体に居る。
今から、王女暗殺作戦の仲間達と顔合わせをする。
みんな凄腕って言ってたし、きっと凄く怖い人たちなんだろうなぁ…
"ガチャッ"
秘密通路の扉が開く。
てっぺんが黒くてそれ以外が金色のプリンヘア。
黄色と黒の縞々のシャツ。
背中には、ミツバチみたいに見える様にデコられた大砲を背負っている。
かけている黒い丸グラサンは、よく見たら虫の複眼みたいに五角形が敷き詰められている。
唯一ハチ要素が無いのは、履いているダメージジーンズくらい。
「いやっほー!一番乗りー!」
そんな事もなかった様だ。
「初めまして。」
「うわーお!かーわいー!」
ミツバチお姉さんは、グラサンを頭まで持ち上げる。
「そんな小さいのにブラックギルドなんてすごいじゃーん!確かリンカちゃんだっけ?あたしはみるみる!ミツバチがだーいすきな、気さくなおねーさんだよ!」
「よろしくお願いします。みるみるさん。」
直ぐにもう二人やって来た。
オレンジ色で、それぞれ逆側にうさぎ結びの髪。
エメラルドグリーンの瞳。
片方はタキシードにシルクハット。
もう片方はフリフリスカートな衣装姿で、まさにアイドルって感じ。
双子ちゃんだ。
「ねえねえジョーカー。」
「なあにパンド。」
「なんで暗殺任務なのに私まで呼ばれたのかな?」
「話聞いてなかったの?」
タキシードの方がジョーカー、アイドルの方はパンドね。
覚えた。
「あらあら。暗殺にしては随分と騒がしいメンツが揃ったわね。」
最後のメンバーもやってくる。
黒くて艶のある長い黒髪。
アメジストみたいな瞳。
紫色のブラジャーとパレオ。
響くのは、コツコツと言う上等なサンダルの音。
背が高くてスタイルも良くて、美人さんで、体には大きな蛇が巻き付いている。
間違いなくこの人は、敵組織に一人はいる毒使いのお姉さんだ。
「あなたが新人さんね。初めまして、あたしはレン。この子は相棒のスケアーロ。よろしくね。」
これで全員だ。
「やっほーレン!久しぶりー!こないだあげた蜂蜜どうだった?」
「ふふ。お陰様で色々調合できたわ。ありがとうね、みるみる。」
「ねえジョーカー。あの子が新人かな?」
「そうだと思うよ。パンド。」
「仲良くなれるかな。」
「試してみよう。」
「「もしもし新人さん。あたし達と友達になってよ。」」
これから犯罪に手を染めようとしている集団にはとても思えない。
みんなもう慣れきってしまっているのだろうか。
「そういえばリンカちゃん。シャッズは?久し振りにこのレン・アスフィライトの美貌を見せてやりたいの。」
「訳あって別行動してもらっています。」
「あらそう。残念。」
とにかく、これで準備は整った。
「じゃあ、作戦を説明します。」
私は地図を広げ、頭の中で練った物のアウトプットを始めた。
正直言って、作戦なんて大層なものでも無い。
ただやりたい事、こうなれば良いなってことを並べただけだ。
「大丈夫よ。今動かせる中で一番のメンバーを用意したから、あなたの心のままに行動しなさい。」
ボスはそう言ってくれたけど、やっぱり不安だ。
一通り話し終えた。
双子ちゃんは無表情。
レンさんは、腕を組みながら何かを考えている。
みるみるさんは、サングラスでよく見えない。
終わった…?
「良いじゃん!最っ高に楽しそう!」
みるみるさんの一声。
「なるほどね。どうりで暗殺作戦にしてはメンツが賑やかなのね。」
レンさんも賛同してくれた。多分。
「やったねパンド。あたし達、すっごく目立てるよ。」
「そうだねジョーカー!登場の決め台詞どれが良いかな?」
双子ちゃんも了解してくれてる。恐らく。
“パン”と、レンさんが一つ手を打つ。
「それじゃ、早速決行しましょ。パンドとジョーカーはここに隠れるのが良いわね。それからみるみるは…」
結局それからは、終始レンさんが取り仕切ってくれた。
ボスが見たいのは私の作戦能力じゃなくて、私が何をするかなのかな。
〜
「それでは“赤龍ギルド”の皆々様方。よろしくお願いしますぞ。交渉決裂した際は、貴方様方だけが頼り故。」
「任せとけっておっさん!姫さんの護衛の一人や二人、俺たちにとっちゃ朝飯前だぜ!」
「おお!なんと頼もしい事か!ではどうか頼みましたぞ!」
心配性のおっさんをなだめた後、俺達は馬車と一緒に出発した。
馬車の中からすげー可愛い姫さんが手ぇ振ってくれたから、振り返してやったら喜んでくれた。
俺の名前はシヴェラ。
赤龍ギルドのエース、龍鎧のシヴェラたぁ俺の事だ!
今日のクエストはなんとかって国の姫さんの護衛。
久し振りに、パーティ六人全員揃っての仕事だ。
「皆様、疲れたりお怪我をされたりしたら、遠慮無く私に言って下さいね。何せ今回は、三日と言う長旅ですから。」
ミルトアはパーティの凄腕ヒーラー。
今ではシスターとしての務めもあるのに、わざわざ休みをとって来てくれた。
「このメンツが揃うのも久し振りだね~何だか懐かしいよ~」
キャーシャはエルフの弓使い。
故郷の森のレンジャー長になってからは戦線をひいたんだが、今回はたまたま都合がついたそうだ。
「今や伝説となったこのパーティを復活させる、サルタド王国の金払いの良さには舌を巻きますね。」
このいけすかないインテリ長髪眼鏡野郎は死霊術師ロウウィン。
こいつもなんか偉いらしい、知らんけど。
「がっはっはっはっは!まさかまた"ブレイズ"として活動できるとは、夢にも思っていなかったぞ!」
ドル=ダズは凄くでっかくて強い戦士。
今は部族の指南役として、次の時代の戦士を育ててるんだ。
「人は時の流れが速いと聞いたが、おぬしらはちっとも変わっておらぬな。何だか安心したわい。」
この白髪ロリ子はシロ、精霊術師だ。
エンシェントエルフって言うすげー長生きな種族で、こいつももう500歳くらいらしい。
今はエルフ社会全体から見てもかなりの重鎮らしいんだが、詳しい事はよく判んねえ。
最強無敵のブレイズパーティが揃ったからには、相手が国だろうとにっくき悪の組織ブラックギルドだろうと、俺達の敵じゃねえぜ!
「よしお前ら!ブレイズの名に懸けて、必ず姫さんを守り抜いてみせるぞ!」
「はぁ…護衛ってそんな気合い入れる仕事でも無いでしょう。どうせ大したことも起こらなそうですし。」
「るっせー!こういうのは盛り上げてなんぼなんだよ!」
「がっはっはっはっは!こいつらは相変わらずだなぁ!ミルトアよ。いや、今は聖女様と呼んだ方が良いかな?」
「いえ、ここではどうかミルトアとお呼びください。その方が私も気が休まりますので。」
「そういえばキャーシャよ。最近の調子はどうじゃ?」
「シロ様直々の特訓のおかげで、このあいだやっと十の試練を全部突破できました~!」
「おお!それはよかったのぉ!」
五年前のあのクエストが、ブレイズの最後の仕事だと思ってた。
まるで冒険者として駆け回ったたあの日々に戻ったみたいだ。
神様がくれたこの三日は、大切に過ごすことにしよう。
~
隠れ家で待機していると、顔を真っ青にしたレンさんが戻ってきた。
「レンさん!?大丈夫ですか!?」
「だめかもしれないわ…」
「ええ!?」
「作戦は中止よ。まさか王女の護衛に、よりにもよってあのブレイズがあたるなんて…」
「ブレイズ?」
「メンバー全員が最強格のオリハルコンクラス冒険者。超国家戦力級パーティにも指定された化け物集団。もう解散した筈なのに…王宮は一体どれだけのお金を積んだって言うの…?」
よく分かんないけど護衛がやばいらしい。
「そんなに凄い冒険者を雇えるなら、どうして協商と戦争を続けているんだろう…」
「きっと王国は、協商の壊滅を望んでいないのよ。だから次期女王まで引っ張り出して和解しようとしている。でも協商は、既に王国と敵対関係にあるカンディバ帝国と手を結んでしまっているから、今更引けないの。」
レンさんは机に突っ伏する。
巻き付いていた蛇も、力無くだらけている。
「だから協商は、内約が露呈する前に戦争を激化させて、帝国が介入する理由を作りたいのよ。そしてその着火剤として、中立組織ブラックギルドによる王女暗殺事件が使われる事になったって訳。それがまさか…こんな貧乏くじだったなんて…」
少しして、続々とみんなが戻ってきた。
みるみるさんも双子ちゃんも、みんな具合が悪そうだ。
「どうすんのあれ…あんなのの前に立ったら、二秒以内に骨も残さず抹消されちゃうよ…」
出て行く時は元気はつらつだったみるみるさんが弱音を吐いてる。
事態は相当深刻らしい。
当初の作戦はこうだ。
まずレンさんが護衛を攪乱しつつ、みるみるさんと双子ちゃんが全線で戦う。
その隙に、《カムイ》を飲んだ私が馬車を狙い、王女を討つ。
それが、私の願望を元にレンさんが建てた作戦だった。
「どうしよう…任務放棄なんてしたら…アネキに大目玉食らわされる…」
レンさんのこんな弱気な姿初めてだ。
まあ今日が初対面なんだけど。
「ねえ、レンさん。ブレイズについて、詳しく教えて欲しいの。」
「…え?あなたまさか、まだ諦めてないの?」
「少し試したい事があるの。みんなには負担をかけてしまうかもしれないけど。」
もし私の仮説が正しければ、まだやりようはあるかもしれない。
「今から、作戦の変更点を伝えるね。」