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メンヘラメイデン・プレイタイム 〜異世界来たからリスカやめる〜  作者: みゅにえ〜る
第一章 王女暗殺篇 全11話
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初クエスト

姿見の前で、私は唖然とした。


ふわふわもこもこ、可愛い耳つきピンク色のフードと水色の萌え袖。

ここまでは良い。

鎖骨の間、首のあたりにあるちょうちょ結びのリボン。

そこから伸びる、水色とピンクのゆるっゆるのリボンが、胸を覆いつつ背中に回り込み、背中の辺りでクロスしてまた前に戻り、そこで合わさってパンツを形作っている。

右足には水色、左足には桃色のながーいスカートとブーツを履いている。


「あの…えと…他には…」


「か…かか…完璧。君の剣と色感を合わせたんだけど…どうかな…」


「そういう事じゃなくて…」


未だにこの世界の倫理観が掴めない。

そういえば同年代の女の子とまだ会った事が無い。

もしかしたら、私くらいの女の子はこういう格好をするのが普通なのかも知れない。


「へへ…へへ…へへへ…イカ腹…鳩尾…細やかな筋肉…骨…華奢な身体…全部全部…最っ高…!」


私の考え過ぎかも知れない。


困ったなぁ…この世界では、一応まだヴァージンなんだけどなぁ…


袖やフードだけを見れば、前世で言う所の、ファッションメンヘラの雰囲気に近い。

センスは確かなようだ。


「ふへふへふひひへへへへへ…」


ええと確か、危ない目にあった時は大きな音を出せば良いんだよね。


「コスプ…衣装の準備は万端…それじゃあ早速…」


私の声量で足りるかな。

息を大きく吸い込み、


「みんなでお姫様をぶっ殺しに行こう!」


「…へぁ?」


胸に溜めた息が全部、疑問符になって出ていってしまった。

ジズジーさんに手を引かれ、彼女の裁縫部屋から出る。


「あらジズジー、作業はもう終わ…」

「おうリンカ。服はど…」


私の姿を見た瞬間、二人とも固まってしまった。


「へ…へへへへへへ…!この子の着てたワンピースすごく良い生地でさぁ!久し振りにウチのアイデア全部形にできちゃったよ!へへへへへへへへえへへへへへへへ!」


向けられたのは憐れみと同情の目。

「ここまで攻めてんのは久しぶりだな…」と、神妙な面持ちのジルさんの呟き。


「ま…まあほら、最近流行りのエロかわいいって奴よ。」


やめてバーテンダーさん、もうフォローしなくて良いから。

ていうか、そう言う概念はちゃんとあるのね。


「えっと…他のふ」


他の服と言おうとした瞬間だった。


「あ"?」


ジズジーさんの憎悪に満ちた眼差し。

どうやらこの装備は呪われているらしい。


「それじゃあリンカちゃん、早速なんだけど、初仕事を受けて欲しいの。」


「え、私にですか?」


「そうよ。顔が全く割れていない、君にしかできないお仕事。ウチのギルドへの入会試験だとでも思ってちょうだい。」


バーテンダーさんが手招きするので、私はカウンター席に座った。

高い椅子に座るのに苦労していると、ジズジーさんが持ち上げてくれた。

「へへへ、ちっちゃい。かわいい。」とか言いながら。


「今回のターゲットはこの子よ。」


水色のドレス。

ティアラ。

金髪。

蒼い瞳。

凄く綺麗でかわいい子だ。


「この方は?」


「あなたの初仕事は、ミテラ王女の暗殺よ。」


「暗殺!?」


「ブラックギルドは、決して特定の国や思想に肩入れしない。倫理や善悪からも独立している。あなたに、このギルドのスタンスについていける資質があるかどうかを試したいの。」


写真がもう一枚出てくる。


短い銀髪の、若い男の人。


「サルタド王国には既にうちの工作員が一人潜入に成功している。あなたには先ず、彼と接触して欲しいの。名前はシャッズ。今は宮廷料理人として働いているわ。」







サルタド王国の宮廷料理人になってから、今日でもう五年目になる。

今では誰もが俺を信用し部下もできた。

王国内の情勢を観察するには、最高のポジションだ。


「シーさん。今晩の献立は何でしょうか。」


こいつはミテラ。

この国の王女だ。


言葉遣いこそ丁寧だが、中身はまだまだ、好奇心旺盛な子供だ。


「ジイランドワッフルのキャビア添え。トリュフとサーモンのスープ。メインディッシュには、カナールデュックを用意しております。」


「わぁ!今日は一際豪華ね!」


「陛下はこれから、協商連合との紛争の結末を左右する、重要な外交に赴かれるのです。そんな陛下に俺からできるのは、これくらいですから。」


「ううん!すっごく嬉しいわ!シーはやっぱり最高ね!」


今日、王女は死ぬ。

協商連合の狙いは、サルタド王国を刺激し戦争を継続させること。

できるだけ王国を弱らせて、同盟国のカンディバ帝国が、王国の横っ腹を食い破れるようにお膳立てをすること。

だが協商が犯人と知られるのは、協商にもカンディバ帝国にも不都合。

だから俺達、ブラックギルドの依頼として転がり込んできた。


「ねえシー、最近ずうっとうかない顔をしているけど、どうしたんですか?」


「あ、いえ。果たして、協商が大人しく交渉の場に現れるかどうか不安でして。」


「大丈夫ですよ。この世に初めから邪悪な人なんていませんわ。話し合えば、必ず分かり合えますわ!」


「ははは。王女様がそう言うなら、間違いありませんね。」


ブラックギルドは、決して特定の国家や思想に肩入れしない。

一個人に至ってはなおさらだ。


「シー?本当に大丈夫ですか?」


「…すみません。ここ数日、終戦した時の献立を考えるので手いっぱいでして。」


「あら!そう言う事でしたの!」


部屋のドアが開く。

やって来たのは使用人。


「ミテラ陛下。まもなく出発の時間で…はぁ。またシー様を連れ込んでいたのですか?」


「あ、いや、これは、その…」


「はぁ…王族としてはその年からお盛んなのは喜ばしい事なのでしょうけど、王女様はまだ子供です。貞操には十二分に気を付けてください。」


「な!?そんなんじゃ無いですってば―!」


「はいはい。早く行きますよ。今日は、数千万の国民の命がかかった、大事な会合なのですから。そういえばシー様、カルディエラ港から牡蛎が届いておりましたよ。」


俺達は、王女の私室を後にした。


「それではシー、今夜は期待していますからね!」


「王女様…やっぱり…」


「違うわ!晩餐のお話よ!」


ミテラ王女を見送り、俺は反対方向に進む。

注文した覚えのない配達は、ブラックギルドからのメッセージだ。

カルディエラ港は七番通路、牡蛎は酒蔵を意味する。


俺は届いた牡蛎を冷凍庫にぶち込んだ後、城を出た。




「いらっしゃいませー。シー様、今日は素晴らしい品が入っておりますよ。」


"素晴らしい品"はメンバー、"入っている"は接触の要求。

このまどろっこしい隠語も、今ではすっかり慣れた。


「実物を見たい。」


「では、奥のVIPルームへどうぞ。」


ブラックギルドは今や、世界各地に隠れ家を持っている。

情報網や組織の全容に関しては、俺も良く分かっていない。


VIPルームに通された。

あるのは机と、それを挟む一対の椅子だけ。

部屋には既に、見慣れない奴がいた。


王女か、それ以下に幼い少女だ。

なんて格好してやがる。

どうせあの変態(ボスの妹)の趣味だろう。


「初めまして。新人です。」


気然を装い、でもすごく恥ずかしがっている姿は、可哀そうだが少し可愛かった。


「ボスからの命で、今回の作戦は私が主導する事になりました。」


新人が今回の上司か。

いかにもボスの考えそうなことだ。

さしずめ、ボスはこいつの事を試すつもりだな?


「それでシャッズさん。」


「シーと呼べ。」


「シーさん。一つだけお聞きしても宜しいでしょうか。」


「何だ。」


「ミテラさんは、死ぬべきだと思いますか?」


「…」


どうやら、試されているのは俺もらしい。


「俺達はブラックギルド。依頼こそ絶対。仮にミテラがどんなに良い子で、無邪気で、誰よりも平和を望んでいて、」


…どういう事だ。

思考が纏まらない。

頭にあいつの顔がちらついて…


「花が好きで…食いしん坊で…変に大人びてて、でも中身はガキで…」


俺が、あいつに心を奪われたって言うのか?

スパイの分際で?

あり得ない…そんな事、あっていい筈が。


「もう判りました。」


「待ってくれ!俺は…」


「あなたは、王女に死んでほしく無いんですね。」


「…そうだ…」


俺はどうやら、ブラックギルド失格らしい。


「私達はブラックギルド。依頼こそ絶対。」


この新人。

腑抜けちまった俺よりもよっぽど、ブラックギルドの肩書が様になっているな。


「今から作戦を説明します。」

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