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メンヘラメイデン・プレイタイム 〜異世界来たからリスカやめる〜  作者: みゅにえ〜る
第一章 王女暗殺篇 全11話
3/11

ハイ

「麓の森にバッドウルフの群れが住み着いてしもうてのぉ。危ないから、退治して来てくれんか?」


村長の家に呼び出されたかと思ったら、案の定クエストを吹っかけられた。

どうしてこうなるの。

私はただ、静かな余生を過ごしたいだけなのに。


「お前も災難だなぁ。こんな片田舎で、魔能者に生まれたばっかりに。」


森にはジルさんがついて来てくれた。

本人曰く、ジルさんは魔能者じゃ無いけど魔能者並みに強いらしい。


「なあ、お前はどうして引きこもってんだ?せっかく天然の魔能者なんだから、どっかの軍にでも入って高給とりにでもなれば良いのに。」


「人も外も苦手だから。」


「ふーん。大変なんだな。」


「ジルさんは強くて若そうなのに、どうして引退しちゃったんですか?」


「秘密。」


「…ふ、何ですかそれ。」


ジルさんは、私の寂しさを埋めてくれる良い人。

でも良い人っぽく見えているだけかもしれなくて怖い。

私、人を見る目皆無だから。

サンみたいな特別な人かもって、いつもどうしても、期待してみてしまうの。


「止まれ。」


ジルさんの声で、私達は森の中で静止する。


「囲まれてる。武器を出せ。」


ジルさんは腰から双剣を抜き、私はカッターを召喚する。


「だんだんと包囲網を狭めて来てやがる。かなり狩り慣れた群れだな。」


ジルさんの言葉通り、少しずつ、茂みの間から灰色の毛皮が見え隠れするようになってきた。


「注意しろリンカ。じきに斥候が襲ってくるはずだ。」


間髪入れずに藪の中から最初の一匹、斥候が飛び掛かってきた。

刃を伸ばした私のカッターが、斥候を叩き切る。


「…斥候以外来ませんね。」


「奴らの斥候は、どちらかと言えば品定め役に近い。落ちこぼれを一匹けしかけて、獲物が自分らの手に負えるかどうかを試すんだ。」


藪が騒めき、狼たちが次々と姿を現す。

灰色の毛並みで、どれも額にルーン文字のような物が付いてる。


「どうやらお気に召したらしい。来るぞ。」


一番大きな個体が遠吠えをする。

すると、他の狼が銀色のオーラを纏った。


「【鋼の咆哮】。機動力と防御力が上がる、奴らの使う魔能の一種だ。」


狼が二匹飛び掛かってくる。

ジルさんがそれぞれ斬ったけど、"ゴッ"て鈍い音をたてて弾かれるだけで、彼らは傷を負わなかった。


「やっぱ魔力がなきゃだめか。リンカ。そのナイフで奴らの鎧を破ってくれ。」


魔能には魔能をぶつけないといけない。

それがこの世界の常識。

魔能による防御は通常の攻撃を全て無効化するし、魔能による攻撃の物理的防御は困難。

唯一の例外があるとすれば、相手が防御系魔能を持っておらず、なおかつ非魔能者が熟練の腕を持っていた場合に限り、勝負は判らなくなる、そうだ。


狼が飛び掛かってくる。

カッターを手に、それを迎撃。


ガシャンと言う音をたててオーラが砕けた狼に、ジルさんが追撃を加えて倒す。

討伐は順調に進んでいるように見えた。


"ガリリッ…"


右腕に激痛が走る。


「い"っ!?」


狼に食らい付かれてしまった。


叩いたり蹴ったりするけど、狼は全く離れない。

力があるのはあくまで武器の方、私自身が攻撃しても意味が無い。


「リンカ!く…想定の五倍は数が多い。一度撤退だ。」


「は…はい!」


ジルさんが力づくで狼を引きはがしてくれた。


その後は向かってくる狼を弾き飛ばしながら、なんとか彼らの縄張りから脱出した。

痛い…全身噛み跡だらけになっちゃった。

跡とか残ったらやだな。


「妙だな…」


「?」


「あんな小さな森に、あんな大規模な群れを養えるだけの獲物があるとも思えない。もうすぐ冬場だってのにわざわざ移り住む意味も。」


そうこうしているうちに、私達は村に戻った。

村は、瓦礫に変わっていた。


「はぁ…そう言う事かよ…リンカ、ここはもうダメだ。俺達だけでどっかに移ろう。」


背後から沢山の気配。

振り返るとそこには、獣皮のズボンとフードを身に着けた少年が一人。

先程の群れを引き連れて登ってきていた。


「はははは。まさかこうもあっさり誘い出せるなんてね。」


村の方にも、もう一人いる。

大きな赤いフルプレートの人。


「自分たちがどれほどの要地に居を構えているとも知らずに、戦えるものをこうもあっさり遠出させるとは。笑止。」


ジルさんは剣を抜く。


「恐らくは帝国お抱えの魔能者共だろう。俺は鎧野郎を何とかする、お前は狼共を…」


「させないよ!」


狼少年の一声と共に、群れが一斉に進軍する。

数が多すぎて捌ききれず、ジルさんはあっという間に狼にたかられてしまった。


「ジルさん!」


「クソッ…こいつら、離れやがれ!」


捕食者に追われる獲物のように誘導され、ジルさんはあっという間に私から引きはがされてしまった。


「ははは。魔能者がいるなんて聞いてないけど、結局はかわった武器を振り回すだけの女の子一人。一年で四つの戦場を渡り歩いてきた僕の敵じゃあ無い。」


「笑止。余は20の戦争にて精鋭遊撃隊を務めていた。」


「大人のお前が張り合ってどうすんのさ。心配しなくても、すぐに追い抜いて見せるよ。」


数え方としては二対一で良いのかな。


「【魔獣操術.進撃指令】!」


少年の号令と共に、狼が橙色のオーラを纏って駆け出す。


「【獄炎武装】」


鎧の人の、鎧と大剣が燃え上がる。


「すー…」


息を一つ吐く。


薬は嫌いだ。

嫌な思い出しかない。

死ぬ羽目になったのも、薬が原因みたいなところもある。


でもカッターや、他の魔能者を見ていて思った。

もしかしたら今この手の中に造ったのは、私の思っている物とは違うのかもしれない。

私の持っている機能が、たまたま前世のサガのせいで、薬として現れる様になっただけかもしれない、と。


手の中に、シートに入った8個入りのタブレット錠剤がある。


これがただの引き金なのか、それとも本当に薬効があるのかは分からない。

でも、少なくとも今は出し惜しみをしている状況ではない。


「【デンジャードーピング.カムイ】」


一錠押し出し、残りを捨てる。

《カムイ》を奥歯で嚙み砕き、急いで舌で喉に押し込む。


「…かっ…?」


全身の肉と骨が、すかすかのスポンジみたいになっていくのを感じる。

妙に頭がさえて、五感も研ぎ澄まされる。


狼の息を頬に感じた。


「!」


次の瞬間には、飛び掛かってきていた狼が全て斬られていた。

あまり自覚はないが、私の攻撃だ。


次は熱。

鎧男のだろう。


開脚で地面すれすれまで身を低くしてかわす。


「何!?」


鎧男が自分の空振りに気付いた頃にはもう、私は男の股下をくぐり背後に回っていた。

貰った。


カッターナイフが、鎧男の首筋を捉える。


しけった息を脛に感じる。

ジルさんの所に回っていた狼だ。


裸足でいてよかった。


狼を踏みつけて飛び、空中でバク転しながら、回転に合わせてカッターナイフを地面に滑らせる。


この思考が早回しになる感覚、知ってる。

前世で散々味わった。

慣れるまで凄く大変だったけど、慣れたら、


チョー楽しいんだよねぇ!


「何だこいつ!動きが変わったぞ!」


「戦士寄りのタンク職かと思ったが、読みが外れた様だ。」


あは!あは!あははははwwwww!!!


おそいみんなおそいあははははははははwwwww!


「このっ!」


“ガキンッ!”


あれーわたしのカッターとめられちゃったー

やーだ


「やだやだやだやだやだー!」


"ガンガンガンガンガンガンガンガンガン!"


なんかいもたたいたら、よろい君のけぞっちゃったー

そこにキーック!


「ぐあああああ!?」


よろい君ふっとんじゃったー


てことはー

やったー!

わたしのかちー^^


「何だよあれ…あんなの人間の攻撃速度じゃない!」


あ、そう言えばもうひとり居るんだった―


「おおかみしょーねんくーん、わたしと友達にならなーい?」


「誰がなるか化け物め!」


ばけ…もの…?


「うう…ひぐ…」


「動きが止まった?い…今だ、【魔獣操術.速攻指令】!」


「うわああああああああああん!」


ひどいー!

わたしこーんなにかわいいおんなのこなのにー!


「きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらい!だいっきらい!」







狼が離れたかと思ったら、全部リンカの所に集まっている。

あいつはそれを、長くて細い剣を振り回して全部叩き切っている。

俺ですら目で追えないほどの剣速。


さすがに、スライムとの戦闘風景では能力の全容は図れなかったって事か。


「ぜんぶぶったぎってやるんだからー!」


普段はあんな大人しいのに、戦いになると人格が変わるのか。

たまに居るんだよな、ああいうの。


懐から魔力の組み込まれた紙切れ、魔札を取り出す。


「俺だ。中々見込みのある奴を見つけた。」

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