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メンヘラメイデン・プレイタイム 〜異世界来たからリスカやめる〜  作者: みゅにえ〜る
第一章 王女暗殺篇 全11話
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リンカーネイション。だからリンカ?

カルマ・リインカーネイション。

それがこの世界の私の名前。


黒くて艶のある、真っすぐストレートな綺麗な髪。

同じく黒い目。

華奢で色白。

リスカ跡が一本も無い腕の、なんと美しい事。二度と傷つけたりはしない。

容姿は、前世の私の小学生時代そのもの。


普段も外出時も寝る時もいつも、背中が大きく開いた白ワンピース一枚だけを着ている。何故が同じのが三着あって、それを洗い変えている。


両親から愛され、毎日沢山の美味しい物を食べて、私はすくすく育った。

なので前世の心の傷なんか、あっという間に癒え…たりはしなかった。


心も身体も本質は同じ。

指に刺さった棘が抜けても傷が残るように、ストレッサーが消えても心の傷は残り続ける。


12歳の誕生日を迎える頃には、私は立派な引きこもりになっていた。


「ねえお姉ちゃん、こんなに良い天気なのに、どうして外で遊ばないの?」


「私はね、暗くて静かな場所が好きなの。」


「ふーん。変なの。」


弟からも呆れられる始末。

私だって、好きでメンヘラやってる訳じゃない。

でも足を骨折した人が歩けないように、今の私じゃまだ前に進めないんだ。


何の因果か、私は魔能(まのう)に目覚めた。

魔能と言うのはこの世界特有の概念で、一部の人が持つ特殊能力みたいなものだ。


私のそれは二つ。

契器(けいき)召喚:クリックブレイド】

【デンジャードーピング】


《クリックブレイド》は、際限なく刃が伸ばせる点を除けばただのカッター。

外装がピンク色なのは、前世で“愛用”してたものの影響か。


デンジャードーピングは、魔力を練って特殊な薬物を錬成する能力。

PTPシートに入ってポケットの中とかに出てきたり、手の上に直接作ったりもできる。

種類は三つ。

青くて丸い錠剤、《ストレングス》

効果時間中は体力がどんどん減って行く代わりに、攻撃力がそれに比例してあがっていく。

白いタブレット、《カムイ》

一時的に防御力がゼロまで下がって、全ての耐性が消えるけど、機動力がとんでもなく上がる。

濃い赤緑色の液体が入った透明なカプセル、《アンディッド》

体力が一度瀕死状態まで減る代わりに、そこから全快するまでとてつもない速度で回復していく。


魔能力者は冒険者とか国軍に就職するのが通例らしいんだけど、こんな危険な能力で戦えなんて無理。

今回の生も前世に習って、適当に身売りでもして生きていくつもり。


「おいどうすんだよこれ。」


外がなんだか騒がしい。


「す…すみません!羊の世話に気を取られて、気付いた時にはもう…」


「たくよぉ…見ろよこれ、お前が魔消し粉を入れ忘れたせいで、井戸水が全部スライムになっちまったぞ。」


どうやら井戸でトラブルらしい。

高原に位置するこの村では、井戸は最重要インフラだ。

騒ぐのも当然だろう。

…スライム?


「困ったわねぇ…これじゃあ暫くはお風呂も入れないわ。」


「水はいざとなったら麓の川から汲んでくればいいが、スライム放置は流石にまずいよな…」


「国軍の兵隊さんが来るまでほっとくしかないだろ。はぁ…この村に、魔能者が一人でも居てくれたらなぁ…」


「居るよ!」


「何!?そりゃ本当か!?聞いた事無いが…」


「呼んでくる?」


「ああ、頼む。…魔能者なんて居たか…?」


待って、この流れはまさか。


「お姉ちゃん!スライム退治してよ!」


「やだ。」


やっぱりか。


「ええ何で?あのナイフでやっつけてよ!」


「いつ見てたの?はぁ…外に出たく無いし、私戦った事無いし。」


「だって井戸が戻らないと、お姉ちゃんもお風呂に入れないんだよ?」


「………」


村のみんなが困ってる。

だから私の力で、この生まれ育った故郷を救うんだ。


「お前は確か、カルマフトのとこの!」


「僕のお姉ちゃん!引きこもりだけど魔能者なんだよ!」


私は沢山の村人にとり囲まれた、石積み井戸を覗き込む。

水ではなく、透明でウニウニした謎の物体で満たされていた。


「戦えって言われても…どうすれば…」


「スライムの弱点は、体のどこかにある核だ。」


村人の中から、男の人が出てくる。


「あなたは?」


「俺の名前はジル。今は隠居してるが、昔は冒険者まがいな事をやってたんだ。」


金髪。

青目。

背が高くてかっこいい。

麻布の服に皮鎧と言う出で立ちは、いかにもファンタジー世界の冒険者って感じ。


最初はこういう文化なのかと思ったけど、どうやら私だけが飛びぬけて薄着らしかった。

せめて靴とか下着は欲しいところ。

風でワンピースがなびくたび、全身がすーすーして仕方ない。


ジルさんの助言に従い、もう一度井戸を見てみる。

最初はゼリーの中に石が混ざってるだけかと思ったけど、よく見たらどれも同じ色同じ質感だ。

きっとこれが核なのだろう。


「スライムは発生しやすい分、魔物の中でもトップクラスに弱い。核を攻撃するだけで簡単に倒せるのさ。もっとも、魔力無しでスライムの体を突き破るのは至難の技だがな。」


なるほど、だから魔能者が要るんだ。


理屈が分かったので作業に取り掛かる。


右の手元に魔法陣が現れ、《クリックブレイド》が召喚される。


「おお…」と言う歓声と共に、村人達は私と井戸から離れていった。

屋内に避難して見物するつもりらしい。


「さて、お手並み拝見といきますか。」と、特にどこにも隠れなかったジルさんの声。

もしや貴方も戦える人間なんじゃ…


考えても仕方無いので、クリックブレイドの先を適当な核に向け、勢いよく刃を伸ばす。


“ザバアアアアアアアン!”


水音と共に無数のスライムが天に向けて噴出され、私を取り囲む。

チュートリアルにしては、少し数が多いかな。


“チャポチャポンッ!”


三匹のスライムが飛びかかってくる。

刃を長く伸ばしたカッターを振り、一筆書きで三つの核を両断する。


“パシャン!”


残ったスライムの体は、もとの井戸水に戻った。


スライムが次々と飛びかかってくる。

私も次々と斬り伏せていく。


魔物と聞いて最初は物怖じしたけど、いざやってみると、ゲームみたいで面白かった。


飛び出してきたスライムを全部片付けた。

念のため、もう一度井戸の中を覗き込む。


井戸水が底に溜まっているだけ、では無かった。


“ザバアアアアアアアアアアアア!”


スライムと同じものでできた、細長い蛇?


「[スライムサーペント]だと!?」


村人の声が、あれの名前を教えてくれた。

スライムのボスかな。

核は頭にあって、スライムのより大きい。


“サラサラサラサァァァァ…”


小川のせせらぐ音みたい。

綺麗だけど、容赦はできない。


“ザアアアアア!”

“ボンッ!ボンボンッ!”


水塊が三発。

かわして、かわして、切る。

ここからじゃ頭は狙えないから、まずは胴体。


“ザバアアアアア!”


断ち切られ、核のない下の方はただの水に戻って井戸に戻る。

上側も井戸に落ちそうになったので、掴んで後ろに投げる。

硬めのゼリーみたいな触り心地で気持ちいい。


“バチャッ!ピチピチピチピチッ!”


陸に上がった魚みたい。

私は剣を振り上げて、ふと良い事を思いついた。


「今日は君が私のお風呂だよ。」


スライムサーペントの切れ端を引きずって、私は家に帰った。


「お前の姉貴やるじゃねえか!スライムサーペントなんて、並みの国軍兵でも苦戦するんだぞ!」


「お姉ちゃん基本的に引きこもりだけど、やるときはやるんだよ!」


どうにも私に対する“悪評”が広まりそうだけど、今はそんな事はどうでも良い。


“バタンッ!ピチピチピチピチピチピチピチピチピチ…”


浴槽にサーペントの切れ端を放り投げ、そこで核を切る。


“バシャア!”


案の定、いい感じに水が張った。

もしかしてスライムって、水が持ち運べて便利なのでは?







「ほう、思いのほかやるじゃないか。」


サーペントの核を咄嗟に水から遠ざける判断力は、とても始めて魔物と相対したとは思えない。

スライムを家で水に戻して使おうって発想に至るのも、中々肝が座ってる。


だが、魔能の方は大したことないな。

確かにあの契器はユニークだが、性能自体は良くても凡。

本人に鍛錬の気が無いのなら、成長も見込めないだろう。


「惜しいな。あともう一癖あれば、俺の仕事を紹介してやれたのに。」

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