君の加護は、「量子力学」です。
頭空っぽにしてお読みください。
「えーと……アル君。君の加護は、量子力学です」
15歳の成人式。村外れにある小さな教会で神父様にそう告げられた時、教会にいた者たちは揃って首を傾げた。
「……何ですかそれ?」
生まれてこのかた15年、そんな加護聞いたこともない。
「分からん。ちょっと女神様と交渉してみる。――もしもし女神ちゃん、聞こえてる?加護の内容分かんないんだけど、説明してくれない?……え?追加料金払え?床下のやつで勘弁してやる?い、いや、それはちょっと…………」
神父様が困った顔しながら女神像を拝み、ぶつぶつ言い始める。どうやら時間がかかるようだ。しばらく待ってて、と神父様がハンドサインした。
「そうだ!長老、長老は何かご存知ありませんか!?」
何十年生きてるのかも分からない村一番の物知りなら、何か知らないだろうか?長老の方を振り返りながら聞いてみると、つばの大きな帽子と長い髭がトレードマークのお爺ちゃんが、眉を寄せてうんうん言っていた。
「うーん……リョーシリキガク、リョーシリキガク……はて、何処かで聞いたような…………。―――あ、そうじゃ!確か東方の伝説に、龍神力鬼“学”とかいうモンスターがいた筈じゃ!!」
「………あーもう、後でお菓子をお供えしますから、それで満足してください!………え?なんかすごい力?実は私もよく分かんない?……そうなんですね!分かりました!!―――アル君、その加護はなんかすごい力みたいだぞ!!」
「―――ほぇ?」
龍神?なんかすごい力?なにそれ?
二人の出した結論にビックリしているアルを他所に、村人達がガヤガヤと騒ぎ始める。
「おい、聞いたか?なんかすごい力らしいぞ?」
「アル君は頑張り屋だものねぇ、良かったわ」
「神の力だなんてアルの奴……まさか、伝説の勇者なんじゃないか!?」
「………え?ちょ、みんな?」
「勇者だ!勇者アルの誕生だ!!」
「多分どっかの魔王が倒されるんだ!!」
「皆飲め!今日は宴だぁぁぁぁぁ!!」
「え?え?えぇぇぇーーーーーー!?」
◇
これが復活して三週間目の魔王を倒し、「え?ちょっと来るの早すぎない?まだ準備中なんだけど!?」と魔王に言われた伝説の勇者、アルの誕生にまつわる逸話である。
因みに勇者の決めゼリフは、「何かよく分からん凄い力をくらえぇぇーーー!!」だったと伝えられている。
彼は魔王と倒した後に、数理物理学の加護を受けた姫君と結ばれ、幸せに暮らしたのだった。めでたしめでたし。
量子力学を使ってみたかった。